倍速視聴はタイパか? 『映画を早送りで観る人たち』レビュー

新書『映画を早送りで観る人たち』レビュー

 映画好きにとって、センセーショナルな本が出版された。タイトルは『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~』(稲田豊史/光文社新書)。タイトルの通り、映画を倍速で観ている人たちを解析した作品だ。

 筆者は曲がりなりにも映画のレビューをしているので、リーチしたい人たちがどんなマインドをもって作品を観ているのかが気になって本書を手に取った。

 率直に言う。読めてよかった。自分の中で疑問として常に燻っていたものが、本書でほぼ全てクリアになったといっても過言ではない。

 というわけで、今回は、筆者が感じていた疑問とその答え、そして答えに対する考えを書いていきたいと思う。あらかじめ言っておくが、倍速視聴の是非については特に語っていないのであしからず。

最近の映画は疲れる

 仕事柄、筆者は頻繁に試写会に参加したり、地元の映画館で映画を観たりしている。

 映画鑑賞は生活の一部なので、これまで何本観ても疲れると感じたことはなかったが、最近は違う。映画を1本観ると疲労困憊。その後は仕事にならない。死活問題なので、原因を考えていた。

 考えついた理由は3つ。加齢と運動不足、そしてトレイラーを含む一切の事前情報を入れないことだ。

 加齢と運動不足はどうにもならないが、なぜトレイラーを観ないことが疲れてしまうのか。その答えが、『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~』には書いてあった。

 まず、筆者がトレイラーを観ないのは、内容を暴露しすぎているからだ。1番の目玉になるシーンを惜しげもなく垂れ流しているので、映画館に行ってわざわざ観なくたって内容がわかってしまう。それでは映画を観たときの驚きや発見が感じられない。正直、つまらない。トレイラーは映画をつまらなくしていると思っていた。

 だが、『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~』によると、Z世代は冒険をせず、確実に面白いとわかっているものしか映画館で観ないから、事前に手に入れる情報は多い方がいいと思っている、と書いている。なんならネタバレサイトにも目を通し、その作品を観たときにどんな感情になるのかも把握しておきたいのだそうだ。それは、その方が彼らの思う「コスパとタイパ(タイムパフォーマンス)がいいから」。

 つまりZ世代にマーケティングしたいなら、必然的にトレイラーには情報を詰め込む必要が出てくる。生粋の映画ファンはトレイラーを観なければこれまで通りの楽しみ方ができる。必要なら与える、必要なければ自ら情報を得なければいい。トレイラーを作る側はそういう判断なのかもしれない。

 だが、生粋の映画好きであり、コスパを重視する筆者は異なるコスパ論を持っている。

見せすぎトレイラーはコスパが悪い

 筆者は映画が大好きで、常にチケット代の捻出に頭を悩ましていた。学生時代は、映画の日(毎月1日)はもちろん、水曜日のレディースデイ(今はもうない)、レイトショー、特別割引を駆使していた。だが、それでもパンフレットと電車賃を入れると3000円は覚悟する必要がある。3000円で映画をとことん楽しみ何かを得ることが、筆者にとってのコスパだった。だから、当然エンドクレジットも見逃さない。見ず知らずの名前の先に広がる人生すら想像したものだ。

 そんな筆者に映画人生を変える出来事が起こった。忘れもしない1999年公開の『ディープ・ブルー』だ。

 『ディープ・ブルー』とは、脳を操作されて賢くなったアオザメが人間を襲うパニックアクションだ。出演者は、サフロン・バロウズ、トーマス・ジェーン、LL・クール・J、サミュエル・L・ジャクソン。LL・クール・Jの知名度は音楽好きの中では高かったが、この中でなら主演のふたりよりもサミュエル・L・ジャクソンの方が人気も知名度も上だった。

※注意:ここから『ディープ・ブルー』に関するネタバレを含みます。

 当時20歳前後だった筆者は、それまでのハリウッド映画セオリー通り、サミュエル・L・ジャクソンが最後まで活躍すると信じていた。しかし、彼はテンションが最高潮のシーンであっけなく死ぬ。予想していなかった展開に、思わず椅子からお尻が浮くほど驚いた。だが、他の観客は全く動じていなかった。あとで一緒に鑑賞していた男性に聞いたところ、そのシーンはテレビCMでバンバン流れていたそうだ。

 すでにサミュエルの死を知っていた男性の満足度は、筆者のそれと大きな差があった。あの瞬間の驚きを楽しめなかった彼を、「ネタバレトレイラーによる被害者」だと思った。

 この一件以降、筆者はできるだけトレイラーを観ないようにしている。見せすぎトレイラーはコスパが悪いと思っているからだ。



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