少年ジャンプの落語漫画『あかね噺』はなぜ面白い? スピーディな展開から読み解く“考える主人公”の強み
「週刊少年ジャンプ」にて、今年2月から連載が始まった『あかね噺』(原作:末永裕樹 作画:馬上鷹将)がブレイクしそうな気配だ。本稿では、主人公・朱音(あかね)の成長と、その描き方を軸に本作ならではの魅力を考察したい。
6月3日に単行本第1巻が発売予定の新作である『あかね噺』は、落語の世界に魅せられた女子高生・朱音の成長物語だ。第一話では、真面目で熱意と能力のある落語家の父・阿良川志ん太が真打昇進試験に挑む。無邪気で父の落語が大好きな朱音と、夢を支えてくれる妻のため、驚くべきパフォーマンスを見せるが、業界の重鎮・阿良川一生から理不尽に思える酷評を受け、破門されてしまう。それから6年ーー17歳になった朱音の物語が始まる。
「真打になって おっ父の芸はスゴかったって事を みんなに……あの男に 私が証明する」
そんな思いで、父も師事していた阿良川志ぐまに教えを請い、小学校時代から6年間、必死に技術を磨いてきた朱音。物おじしない性格で一見、破天荒にも思えるが、前向きで地頭のいい朱音は好感が持てるキャラクターだ。
さて、この手のサクセスストーリーは、「才能あふれる主人公の前に壁が立ちはだかる→指導する立場の人物から(一見不可思議な)課題を与えられる→主人公は悪戦苦闘しながら問題解決の糸口を見出す」という定番の展開がある。『あかね噺』の場合、そのサイクルがスピーディに回るのが特徴的だ。
まずもって、朱音は志ぐまに正式に弟子入りし、修行を積むという段階に至るまで、派手な失敗をしていない。具体的なエピソードは本作を読んでいただくとして、敬愛する父から目で盗んできたもの、そして6年間にわたる修行の経験を生かし、年齢にそぐわない見事な技術と舞台度胸を見せつつ、本人や本業の噺家にはわかる、比較的高度といえる課題を発見するのだ。
主人公が手痛い失敗をするほど、それを乗り越えたときのカタルシスも大きくなる。しかし、安易にそうしたエピソードを描くことは、「これまでの修行は何だったのか」「本当に真剣に向き合ってきたのか」という疑問を生じさせるリスクをはらむ。その点、朱音は軽率な失敗をせず、覚悟を持ってひとつのことに打ち込んできた6年という歳月の重さを感じさせながら、高座に上がって初めてわかることーー例えば、観客とのインタラクションの重要性という、納得感のある課題と向き合っていく。そのため、読者は不要なストレスを感じることなく、純粋に朱音の成長を見守ることができるのだ。