『東京卍リベンジャーズ』最終章はいつから構想されていた? 最新27巻に散りばめられた重要なエピソードを考察

※本稿には『東京卍リベンジャーズ』(和久井健/講談社)の内容について触れている箇所がございます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)

 和久井健の大ヒット作、『東京卍リベンジャーズ』の最新刊(27巻)が発売された。初版に巻かれているオビの情報によると、現在、コミックスのシリーズ累計発行部数は5000万部を突破しており、テレビアニメ版は各種配信サービスで1位を獲得、また、映画版も2021年の実写映画興行収入1位を記録しているとのこと。

 さらには、「週刊少年マガジン」での連載分もいま、最終章としての大きな山場を迎えており、同作は、まさに名実ともに、2020年代のコミック・シーンを代表する作品の1つになったといっても過言ではないだろう。

最終章は“蛇足”か、“描かれるべき物語”か

 『東京卍リベンジャーズ』の主人公は、花垣武道(タケミチ)。26歳の冴えないフリーターだったが、ある時、ひょんなことからタイムリープ能力を発現させてしまう。そして、12年前の中学時代に何度も繰り返し戻り、不良集団「東京卍會」の一員となって、恋人・橘日向の死を回避するために奮闘する。

 だが、24巻から始まる「最終章」では、そうした物語の前提となるテーマ(=主人公の目的)は大きく変更されている(タイムリープ先も、12年前ではなく、10年前になっている)。つまり、具体的にいえば、タケミチの“やるべきこと”が、「日向を死なせない」ということから、「マイキー(=東京卍會初代総長)を“闇堕ち”から救う」ということに変わっているのである。

 これはもはや、それまでとはまったく別の漫画になったといってもいいくらいの大胆な軌道修正(?)であり、その急展開に戸惑った読者も少なくないのではないだろうか。また、少々ひねくれた見方をさせてもらえば、同作が雑誌を背負うほどの大ヒット作に化けてしまったがために、(おそらくは編集部の意向で)連載の“引き延ばし”にかかったのではないか、といえなくもない(詳細は省くが、実際、21巻で、“日向の死”をめぐる因縁自体は断ち切られているといっていい)。

 だが、そうではないのだ。いま繰り広げられている最終章の展開は、もともと作者の頭の中で、“描かれるべき物語”として構想されていたものに違いない。それは、先日発売されたばかりの27巻を読めばよくわかるだろう。

エンタメ作品における、“異才が1人ずつ集まっていく”という展開の面白さ

 『東京卍リベンジャーズ』27巻では、梵(ブラフマン)、六破羅単代(ろくはらたんだい)、そして、マイキー率いる関東卍會による三つ巴の抗争――いわゆる「三天戦争」終結後の“日常”が描かれている。

※再度注意。以下、最新刊(27巻)のネタバレあり。

 なお、梵にとって、この三天戦争は、ドラケン(=元東京卍會副総長)の弔い合戦という意味でも負けられない戦いだったのだが、マイキーによって半殺しの目に合わされているタケミチを庇(かば)う形で、首領の千咒がチームの解散を宣言。六破羅単代もまた、総代・サウスがマイキーとのタイマンであっけなく敗れたため、結果的に、三つ巴の抗争は、関東卍會の圧勝に終わった(その後、六破羅単代は関東卍會に吸収される)。

 タケミチは病院送りとなり、ひとり、ベッドの上でこう決意する。「もう誰も巻き込みたくないんだ ここからは――オレ一人で戦う…」(第234話より)

 しかし、すぐに彼は、日向の“助言”により、それは“自分本来の戦い方”ではないということに気づかされる。「みっともなくたっていい オレは… 花垣武道だ みんなを頼って 巻き込んで 仲間と一緒に マイキー君を助けるんだ!!」(第236話)

 ここから先の展開を、個人的にはとても面白く読んだ。

 自らが率いるチームを創る決意をしたタケミチは、まずは盟友・松野千冬に声をかけ、その後も、力になってくれそうな旧友や先輩たちのもとを訪(たず)ね歩く。当然、かつての仲間たちの多くは賛同してくれるのだが、とりわけ読者の胸を打つのは、元東京卍會二番隊隊長・三ツ谷隆の(自分の輝かしい未来よりも、仲間たちとの“いま”を選ぶという)“決断”だろう。思えば、この三ツ谷こそ、(マイキーとドラケンの2人は別にして)隊長クラスでタケミチを最初に認めた漢(おとこ)でもあった……。

 ちなみに、こうした展開――すなわち、「何かの目標のために異才たちが1人ずつ集まっていく」という展開は、実は、面白い物語作りの王道でもあり(たとえば、映画『七人の侍』の序盤などを見られたい)、その王道的展開を作者は、(物語の前半ではなく)あえて最終章に持ってきたのだともいえるだろう。

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