平野歩夢はなぜストリートでもリスペクトされる? 「NBD」にこだわるスタイル

平野歩夢「NBD」にこだわるスタイル

次世代の子供たちが、次の「NBD」に挑戦するため

  
『Two-Sideways 二刀流』では、他の誰にもできない、自分のスタイルというものを追求している平野歩夢選手のこだわりも垣間見ることができる。特にスケートボードは、撮影の際もカメラが近い位置にいることも多く、ボードに足がついていないという意味でも、体の細かい動作が目立つ。難しいトリックを乗り、大会で良い成績を残すだけではなく、2つの競技を経験している強みを最大限に活かすトリック選びから、そのトリックをどのように乗るかまで、自身のスタイルを構築する平野歩夢選手の思考が伝わってくる。スノーボードにはないトリックである「キックフリップ」を一つやるにしても、スノーボーダーとしての強みを活かし、滞空時間が長い「カッコいい」キックフリップをメイクする。そのシルエットを見ただけで、「この滑りは平野歩夢だ」と気がつくことができるだろう。

 独自のスタイルを追求し、「NBD」を体現する彼が文化に与えた影響は計り知れない。2つの競技でオリンピックに出場するだけではなく、北京2022 冬季オリンピックでは、スノーボードで人類最高難易度のルーチンを2度成功させるという「NBD」を達成した。フォトエッセイの中で、とても印象的だったのが、平野歩夢選手が次世代について語った箇所だ。

「スポーツだけじゃなくて何事も本気で打ち込んだときって、やり切る勇気が持てなかったり、やりたくない気持ちになってしまう瞬間が必ずあると思うんです。本気であればあるほど、やっても無駄かもとか、どうせ俺なんて失敗するに違いないって気持ちは湧いてくる。もしも、誰かがそんな気持ちや立場になったときに、俺の今回の挑戦がちょっとでも力になってくれたら嬉しい」

「『平野歩夢を追い越したい』と思われる存在になれたら最高ですね。俺も子供の頃にそう思えた存在がいて、それが大きな力になったからこそ、今の自分がいるので」

 失敗がつきものの挑戦。しかし何度失敗しても、自分にとっての「NBD」を実現させるまで諦めない「心のタフさ」がスケーター/スノーボーダーにはある。そのタフさ、そして「誰もやっていない」への追求を見せてくれたのが平野歩夢選手だ。彼によって「NBD」から「ABD」になったこの挑戦。平野歩夢選手は、その姿を目の当たりにした次世代の子供たちが、次の「NBD」に挑戦するための礎を築いたと言えるだろう。また、子供だけではなく、私たち大人にも、自分にとっての「NBD」に挑戦するモチベーションを提供してくれる。平野歩夢選手と『Two-Sideways 二刀流』は、そのような存在だ。

 本書は挑戦へのモチベーションをくれることはもちろん、平野歩夢選手の専属マネージャーを務める篠﨑公亮氏による写真も、非常に見応えがある内容となっている。雄大な雪山でのスノーボードの写真、そして世界中のスケートパークで滑る平野歩夢選手の迫力満載の写真は必見だ。個人的には、私の中学校の先輩でもあるプロスケーター/フィルマーのChris Gregsonと談笑する写真も印象的であり、このような写真からもスケートボードカルチャーのコミュニティ感を垣間見ることができるだろう。今後も平野歩夢選手の「NBD」への挑戦を追いかけたい、そのような気持ちになるフォトエッセイであった。

■書籍情報
『Two-Sideways 二刀流』
平野歩夢 著
定価: 2,200円(本体2,000円+税)
発売日:2021年09月24日
判型:B5判
ページ数:144
出版社:KADOKAWA

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