北京五輪メダリスト平野歩夢が「二刀流」に挑む理由「誰もやっていないことを形にしていることが、 俺にとってのスタイル」
「二刀流」といえば、メジャーリーグの大谷翔平の代名詞。しかし、それに勝るとも劣らないワールドクラスの二刀流を達成しているのが、スノーボード/スケートボード選手の平野歩夢だ。
スノーボードでは小学4年でプロ契約。2014年のソチ五輪、2018年の平昌オリンピックで2大会連続の銀メダルを獲得している。そして「オリンピックの正式種目になってしまった以上、スルーするわけにはいかない」とスケートボードで東京2020オリンピックに出場。その半年後の北京2022オリンピックでは、多大なプレッシャーがのしかかる状況の中で大会史上初となるトリプルコーク1440を成功させ、見事に金メダルを獲得したことも記憶に新しい。その輝かしい経歴には「史上最年少」「前人未到」という冠がついてまわり、早熟な天才でありながら、進化と挑戦を続けている。
『Two-Sideways 二刀流』(KADOKAWA)は、そんな平野歩夢の「二刀流」宣言から、スケートボードで東京オリンピック出場を目指す姿を追ったフォトエッセイだ。
平野歩夢が二刀流に挑戦する理由
世界各地を転戦し、練習に明け暮れ、日々の挑戦を続ける平野歩夢。その佇まいはひたすらストイックで、クールに映る。撮影を担当しているのは、8歳の頃から平野を見つめ続け、現在はチームのマネージャーを務めているという篠崎公亮。篠崎氏が、平野の撮影を始めたのはソチ五輪に参加した頃からで、当初はあくまでも「活動の記録」だったという。
「私はプロカメラマンではないので、今回の本を出版する話をいただいた当初は迷いがありました。 でも、常識に捉われず、新しいものに挑戦し続ける歩夢の姿をすぐそばで見ていて、私だって何か未知なるものに挑戦してもいいのではと、背中を押してもらえたんです」(『Two-Sideways 二刀流』P125より)
プロではないかもしれないが、その写真はダイナミックで、現場の息遣いが感じられる。それは篠崎氏が平野と共に雪山やパークで多くの時間を過ごし、スケートボード、スノーボードのカルチャーを深い部分で理解しているから捉えることができたのだろう。
そんな写真を目で追う内により鮮明になるのが、ふたつの競技の違いだ。並んで配置された雪山のハーフパイプと町中のスケートボードパークの写真を眺めるだけで、競技として別物であることが伝わってくる。体の使い方も、表現も違う二種目を両立させる難しさは、平野の言葉で何度も語られる。
「遊びで両方やっている人はたくさんいます。俺の場合は、両方の競技でトップを 狙っているからこその難しさだと思います』『二刀流というのは話題作りでもなんでもなくて、その挑戦の先に広がっている自分にしか見られない世界を見てみたいという好奇心から来た決断なんです」
しかし、その挑戦は予想以上に困難なものとなる。コロナ禍によって各大会のスケジュールが乱れ、東京オリンピックも延期。二刀流を達成するためには、スケートボードで夏季オリンピックに出場、そのわずか半年後に冬季オリンピックに挑むという、誰も経験したことのない文字通りの前人未到な挑戦となってしまったのだ。
そこで平野が取り組んだのは、単純に練習量を増やすという愚直な方法だ。
「俺の場合は、それでなくても初めての 二刀流という時点で不安が多いわけですから、ネガティブなほうに自分を持っていかないようには意識していました。とりあえず、今日、明日。意識を強引にでも、近くにフォーカスしていました」(『Two-Sideways 二刀流』P35より)