才能か努力か、センスか練習かーースキージャンプに必要なものを教えてくれる小説たち

 雪や氷の中でアスリートたちが競い合う北京オリンピック2022冬季大会が開幕、2月20日までスキーやスケート、スノーボードといった様々な競技が繰り広げられる。世界中から集まる選手たちはどのような練習を経て晴れ舞台に立ったのか。どのような思いで競技に臨んでいるのか。そんなことを感じ取れる物語を紹介していく。まずは「スキージャンプ」だ。

 トップアスリートとは天性の才能なり、肉体の持ち主だけがなれるのか。それとも努力でどうにかなるものなのか。高梨沙羅選手のメダル獲得に期待がかかる女子のスキージャンプを舞台にした乾ルカ『向かい風で飛べ!』(中公文庫)にはそんな、才能の有無をめぐって悩みながらも成長していく、女子スキージャンパーたちの姿が描かれている。

 札幌から祖父母のいる田舎へと戻った小学生女子の室井さつき。なかなか周囲に溶け込めないでいたところ、クラスメートですらりとした美少女の小山内理子から、スキージャンプを見に来ないかと誘われる。行った先にはスキーウェアを着た理子がいて、大人たちに交じってとてつもないジャンプを見せていた。

 理子は女子のスキージャンプ界で将来を有望視されていて、五輪すら出場できる可能性があると言われている逸材だった。そんな理子からいっしょにやらないかと誘われて、さつきもスキージャンプを始めることにした。ところが、意外にもさつきはスキージャンプの才能があったようで、誘った理子が驚くくらいにぐんぐんと成績を伸ばし、理子を追い詰めていく。

 天才と凡才の立場が入れ替わったかのように見える展開が、才能というのはいったい何なのだろうか、永遠のものなのだろうかといった問いを投げかけてくる。子供の頃は神童と呼ばれていても、大人になったらタダの人なのはスポーツでも芸術でもよくある話。自分もそれだけのことだったのか? 迷い苦しむ理子の姿が、壁に当たって悩む少年少女に同じ思いを抱かせる。同時に、自分なんてと思い込んでいる少年少女に、チャレンジしてみようという気持ちを与える。そんな物語だ。

 努力も大切だが、スキージャンプはそれ以上にセンスやメンタルが重要になることを感じさせてくれるのが、成田名璃子の『グランドスカイ』(メディアワークス文庫)だ。群馬県にスキージャンプのクラブがあって子供たちが所属している。そこに持ち上がったクラブの存続問題。年度内に3回、大きな大会で3位までに入らなければ、市からの補助金が打ち切られてしまうのだ。

 だったら頑張ろうと発憤する展開かと思いきや、中学生の至は自分が気持ち良く飛べれば良いから、選抜チームに入って勝つための練習はしたくないと言い、女子スキーの世界で将来を有望視されている翔子も、片思いだった幼なじみの男子ジャンパーが、自分のライバルを彼女にしたことにショックを受けてジャンプ台から遠ざかる。

 理論家で努力肌の航一だけは頑張っていたものの、1人で3回の入賞は難しい。そんな状況のクラブに、かつて五輪に出場しながら土壇場で棄権した元ジャンパーがコーチとして やって来た。競争心に乏しい至には空を飛ぶ楽しさを味わえる機会だと誘い、失恋に落ち込む翔子には競争心を煽り、不調の航一もしっかりケアする。メンタルの不調をどうすれば乗り越えさせることができるのかを学べる展開だ。

 もっとも、コーチの思惑にただ操られるだけでなく、3人がそれぞれに自分で道を見つけ出す描写もあるから、自分たちに良いコーチはいないと諦める必要は無い。自分はひとりで競技をしている訳ではないと気付く至。傷つきたくないから逃げていただけだと理解する翔子。それぞれの脱出方法に学びつつ、テレビの中のジャンパーたちは、あの高いジャンプ台でどのような心境にあるのかを考えてみたくなる。そんな物語だ。

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