努力は才能を凌駕するか 胸を熱くする『アイシールド21』雪光学の葛藤と成長

 個性と才能に溢れる選手たちが数多く登場する、人気アメフト漫画『アイシールド21』。そんななか、私立泥門高等学校アメフト部(泥門デビルバッツ)に所属するワイドレシーバー・雪光学は、才能以前に、幼少期から勉強一筋で運動経験がないという、異色の存在だ。高校二年生からアメフト部に入った彼の葛藤と成長に胸を熱くした読者は多いだろう。本項ではそんな雪光の名シーンを振り返ってみたい。

合宿後のスタメン落選

 まずは秋大会のスタメン決めのシーンから触れたい。地獄の夏合宿“デスマーチ”を乗り切り、その後の体力テストでは40ヤード走5.6秒を記録。デスマーチ前よりも0.5秒も早くなり、周囲だけでなく雪光自身も確かな成長を実感する。しかし、唯一可能性のあるポジション“レシーバー”のスタメンを告げる際、蛭魔は雪光ではなく「バスケ部助っ人 佐竹と山岡を交代で使ってく」と告げる。

 雪光の落選理由として、蛭魔は「17年間机にしがみついてた男が たかが4か月の猛特訓でバスケ部に勝てると思うか?」と説明。実際、どれだけ弱小校の部活動であっても、一週間に数回は身体を動かしていた人と全く運動してこなかった人では運動能力に差が出るのは仕方ない。また、バスケは「ボールをキャッチする」「相手の動きを予測する」が要求され、もともとレシーバーとしての適性が、佐竹と山岡には備わっている。

 当然と言えば当然の結果ではあるが、グランドで泣き崩れ、「どうしてせめてあと一年早く始めなかったんだ」と後悔する雪光の姿には心を締め付けられる。そして、そのすぐ後に「泥門デビルバッツが全員揃うその日まで僕たちは負けない」と雪光に聞こえるように檄を飛ばすセナとモン太。グッと来るシーンが矢継ぎ早に描かれており、心がぐちゃぐちゃになってしまう。

勝利を喜べない葛藤

 都大会の3位決定戦で盤戸スパイダーズに勝利して関東大会出場を決めた泥門。準決勝では西部に負けて一度はクリスマスボウル(全国大会決勝)の夢を絶たれた泥門にとっては、この勝利は代えがたい喜びの瞬間と言える。しかし、選手たちが勝利を喜ぶなかで、その輪に入らずただただ悔しさをにじませる雪光の姿があった。

 スタメン発表後も練習に励み、着々とアスリートとしての能力を伸ばしていたはずだ。しかし、都退会最後の試合も出場できず、雪光は「死闘続きの都大会を自分抜きで勝ち抜いた」という残酷な事実が突き付けられたことになる。その悔しさは言葉では表せられない。

 ただ、雪光の心を察したトレーナー・どぶろく先生(酒奇溝六)の「お前はもう戦士だ」というセリフはとてもしぶい。突き放しでも甘やかすでもなく、雪光の成長を示す優しい言葉である。雪光がアスリートとしての運動能力だけでなく、心構えも急速に身に着けていることが伺えるシーンと言える。

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