とにかく明るい安村が明かす、裸一貫の半生記 「50歳になっても裸芸を続けていたい」

とにかく明るい安村が語る、上京物語

ブレイクからわずか1年余りのスキャンダル


 夢が叶った実感は、確かにあった。毎日のようにテレビ局に通って収録を何本もこなす日々。
「すごく楽しかったですね、華やかで。自分がコンビの時に地下ライブとかでもがいていた間、みんなこんなに楽しいことをしてたのかって思いました」
 その反面、やはり怖さもあった。
 たとえば『さんまのお笑い向上委員会』に出演した時のこと。
「ぼくの目の前に今田さんとホリケンさんが座ってたんですけど、お二人とも収録中、襟足に汗をびっしょり溜めながら必死に掛け合いをしてるんですよ」
 さらに収録後、ご飯に連れて行ってもらうと、その場で反省会が始まった。
「今田さんが『ホリケンごめん、あの時こう言えばよかった』とか、ホリケンさんも『こうしたほうがよかったですかね』とか。こんなにすごい人たちが、ここまで必死にやってるのを見て『俺がやっていくのなんて無理なんじゃないか』って、怖くなりました」
 そして急激な大ブレイクの後には「一発屋」のジンクスが忍び寄る。
「突然ブレイクした人はみんな『自分は一発屋にはならない』って思うんですよね。ぼくもそうでした」
 安村さんには、コンビ時代の実績もある上に、裸芸以外のネタの引き出しも豊富で、周囲から「一発屋では終わらない」と評価する声も多かった。
 しかし2016年、全く異なる次元の強烈な「一発」が安村さんを直撃する。
 週刊誌の不倫報道だ。ブレイクからわずか1年余りのスキャンダル。「裸が生々しく見える」と、仕事が激減。

 報道の直後は、スキャンダルをネタにした企画などでテレビ出演の仕事は入ったが、1年も経つとそれすらも途絶えた。
 そんな中、有吉さんの存在は大きかった。仕事がどんどん減ってゆく中、『有吉の壁』には変わらず呼んでもらえた。
 当時、安村さんは『有吉の壁』でもしばらくの間スキャンダルのネタを引きずっていた。そんな安村さんに、ある時、有吉さんは言った。
「いつまでやってんだよ。お前のやらかしたことなんて、世間はもうだれも気にかけてねえよ」。
 恩人の言葉が、安村さんを呪縛から解放した。
『有吉の壁』には初期から出演し続け、今や『ミスター壁』の異名を持つ安村さん。「本当にありがたかったですね」と振り返る。


 試練の時を経て、安村さんは歌ネタ『東京ってすごい』を生み出す。
 初めは『歌ネタ王』の賞金目当てに作ったネタだったという。
「ぼくは裸のイメージが強いから、それで自分自身のことを歌にしてみました。今こうなっているのはどういう経緯かと」
 東京ってすごい。引っ込み思案で純朴な少年だった自分が、東京に来て、人前で裸で恥ずかしげもなくこんなことをやってる。
 安村さんの生き様がにじみ出る、まさに裸一貫で表現した半生記だ。
「相方に誘われて東京に出て、相方について来たのに自分から解散を切り出して、今、一人で人前で裸になってるとか、訳分かんないなって。それを全部東京のせいにしたんです」
『歌ネタ王』を獲ることはできなかったものの、『有吉の壁』で放送されると、大ウケ。芸人仲間の感動を呼び、あっという間に大きな話題となった。
 東京ってすごい。この言葉は、安村さんが東京で積み重ねてきた、人との出会いや経験の結晶でもあるという。
「いい面も悪い面も全部、東京のせいで、東京のおかげ。今まで出会ってきた人たちへの気持ちも全部、このネタの中に入ってますね」
 幼なじみと一緒に東京に出てきた安村さん。先輩後輩・同期やたくさんの人と出会って仕事も遊びも覚えた安村さん。休みの日にはAKB48の握手会に熱を上げていた安村さん。奥様と出会った安村さん。まゆゆの写真集から運命のネタを発明した安村さん。週刊誌に撮られてしまった安村さん。恩人の言葉で吹っ切れた安村さん。
 東京での出会いや経験のひとつひとつが、安村さんの選択を導き、今の安村さんを形づくった。その実感が「東京ってすごい」のワンフレーズに凝縮されていると思うと、改めて感動した。


 誰しも、小さな出会いや選択がいくつも積み重なって、後々になって全く思いがけぬ形で大きな転機や変化につながった経験があるのではないだろうか。小さな蝶の羽ばたきが、巡り巡ってどこかで大きな風を巻き起こすような。
 その微妙で入り組んだ、人生の因果関係のようなものを一言で表すのは、なかなか難しい。
 安村さんは「東京ってすごい」という言葉に半生を凝縮し、歌に乗せ、あの振り付けで、笑いとドラマに昇華した。安村さんの芸人としての生き様に敬服するとともに、言葉の持つ力を改めて思い知らされた気がする。
 筆者も小説家のはしくれとして、人間の「縁」や「選択」を意識して物語を書いてきた。過去からの小さな無数の縁や選択が複雑に絡み合い、積み重なった「いま」。それが「自分」なのではないか。そういう人生の機微みたいなものを物語の中で分かりやすく表したいと思い続けているが、まだ道半ばである。安村さんの「東京ってすごい」のように、筆者も登場人物の半生を凝縮できるような、そんな言葉を見つけたいと思った。
 最後に、改めて、今から10年後どうなっていたいか、尋ねてみた。
「10年後だと、50歳ですよね……お笑いをずっとやっていたいですね。出川さんとか、ずんの飯尾さんとかみたいに、お笑いで、プレイヤーとして続けていたいです」
「裸芸も続けて、若手芸人に『おっさん、まだやってんのか』って突っ込まれたり」
 2010年のインタビューの時とは真逆の答えが返ってきた。「50歳とか60歳で辞めたい」と答えていた安村さんは、今は、ずっとお笑いをやっていたいと語る。
 東京ってすごい。50歳になっても、全力勝負で、こんなことをやってる。
 そんなふうにして大好きなお笑いを続けている安村さんを、私たちもずっと見ていたい。

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