一見上手な漫画なのに、なぜ商業誌デビューできない? プロ漫画家が指摘する「読後感」の重要性
各種アプリやウェブサービス、SNS等の隆盛により、漫画やイラストを発表する場が急増し、ウェブ発の人気作品も多く登場するようになった昨今。これまでとは違ったルートで漫画家デビューするクリエイターも増えているが、「商業誌への掲載」のハードルは、まだまだ高いようだ。
そんなことがよくわかる動画が、元週刊少年漫画誌の連載作家・ペガサスハイド氏のYouTubeチャンネルで公開された。同チャンネルの動画の多くは、視聴者から寄せられた一見上手な漫画やイラストについて、プロの目線で細かく添削するというもの。解説のわかりやすさとともに、あくまで本人の長所を生かしアドバイスが心地よく、自分では絵を描かない人も楽しく視聴できるのも、大きな魅力だ。チャンネル登録者数は15万人を超える。
2月21日に公開された「【落選・ボツ】漫画賞で落ちる理由と掲載されない漫画~プロの漫画家がアドバイス~」と題した動画では、ハイド氏がプロの漫画家を目指す方々へ「こういう題材の漫画を描くとボツになりやすいから気を付けて」という話を展開した。今回の添削希望者であるエナカさんは、漫画賞を受賞し、さらに担当編集者もついているそう。将来有望な漫画家の卵といったところだ。
そんなエナカさんが描いた1ページ漫画のストーリーは、かなりのホラーな内容だった。彼氏を溺愛する彼女が、愛情を込めたお弁当を作ってくる。唐揚げを一口食べ、あまりの美味しさに衝撃を受ける彼。しかし最後のコマでは衝撃のオチが描かれていた。なんとその唐揚は、“彼女自身”が材料だったのだ。「また作ってくるね▲まだ右足(おにく)あるから(※イラスト上はハートマーク)」と、彼女のセリフが添えられていた。さすがに絵が上手く、ゾッとする話の展開も秀逸に思える。
具体的な添削内容については、ひとつ前の動画「【プロ級なのに落選のワケ】うまいのにデビューできない〜週刊連載漫画家がその理由を教えます〜#43」で細やかに解説されているが、今回の動画ではもう一歩踏み込み、ハイド氏は「この漫画を読んだ後って何かモヤっとしたものが残りますよね」と、読後感の問題を指摘。もちろん、これはホラー作品であり、ハイド氏も「それがいけないとは言いません。エナカさんもそういう意図を狙って描いたと思う」と分析している。しかしその上で、「でもこれで、一般的な少年・少女漫画誌にデビューするのは、難しい」というのだ。
さらに、「一般的な少年・少女漫画では“読むと元気になる”など、ポジティブに意識を向けることができるのが圧倒的に好まれます。例外はあるけれど、読者として好きな漫画・雑誌を思い出した時、みなさんもそうではないですか?」と続けた。確かに、ハイド氏の添削後の作品を見ると、最後に彼女の「これで私と一心同体」という無邪気な台詞が挿入され、失われた左足の描写で読者をゾッとさせながら、不思議とイヤな気持ちが残らない内容になっている。