平野レミが語り尽くす、料理と音楽 「両方とも、気持ちを込めると上手にできるのよ」
クリエイティブな料理と独創的話術で人々を魅了しつづける平野レミ。最新刊の『おいしい子育て』(ポプラ社)は、97年に刊行したエッセイ集『笑顔がごちそう』(講談社)を大幅に加筆・修正した復刻版だ。お二人の息子さんの子育てと料理をする上で感じたことが存分に語られている。さらに47品のオリジナルレシピ、上野樹里氏・和田明日香氏との「和田家の嫁姑鼎談」も収録。今あらためて、子育てと料理、そして音楽について思うこととは? じっくりと話を聞いた。
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25年間、根本的には変わっていない
――本書は97年刊行の本の復刻版ですね。
平野レミ(以下、レミ):もう25年前でしょう? すごいね。(担当編集者の)辻さんの「それを復刻しよう」っていう意気込みがすごいと思うのよね。売れないかもしれないじゃないの。
――今読み返してみて、どう感じましたか?
レミ:決まり悪いと思ったわよ。和田さん(夫・イラストレーターの和田誠さん)も亡くなっちゃって。今と全然環境が違うし、考え方も変わってるじゃない。25年前の文章なんて、とても幼稚だったんじゃないかなと思っちゃって。そうしたら「です・ます」調でなんだか気取ってる感じだったから、そこもちょっと変えたのよ。
忘れてたけど、丁寧に生活はしてたみたいね(笑)。子育てやって、ご飯つくって。私がちゃんとやってたからこそ、息子たちも横道にそれることなく育って、生活してるのよね。やっぱり親が料理をつくって愛を持って育てると、子どもたちもちゃんと育つのよ。
――レミさんのものの見方は変わりましたか? 子育ての基本は「外でのびのびと遊ばせて、ご飯をきちんと食べさせて、バタンキューと寝かせちゃう」と書いていましたよね。
レミ:根本的には変わってないかな。自由にのびのびと、どちらかというと野放しに近かったわね。ご飯を食べさせたら「どっか行きなさい!遊んでらっしゃい!」って言うの。
和田さんは「勉強しろ」なんて言わなかったの。だから逆に私は「少しは勉強させなくちゃ」と思うんだけど、それでも和田さんが「ほっとけほっとけ」って言うのね。それはすごく心配だったんだけど、あの時和田さんが「勉強しないといい大学に入れないぞ」なんて言ってたら、こども達の人生も変わってたと思うし、これで良かったんだと思います。
――お子さんたちが台所で宿題をしていたという話が印象に残りました。
レミ:私が息子たちのためにご飯をつくっている最中の姿だって、ごちそうの一部じゃないかと思ってね。できたものを「はい!」って出すんじゃなくて、そのプロセスを見せることも、とっても大切だと思ったのね。
私がエプロン姿で、水道の水をジャーと流している音。大根やゴボウをトントントンと切っている音、炒めている音。みんな宿題しながら、耳に入っていると思うの。あと匂いも入っていると思う。息子たちに何も言わないで、台所で宿題をさせてたのが、逆によかったんじゃないかな。
息子が「お腹減っちゃったから早く~」と言えば「もう少し待っててね」とか言ってね。そうすると待つ楽しみも出てくる。できた時の喜びは、どこか外で買ってきた料理をチンして出すのとは、わけが違ってくるからね。
いつも見せてたのがよかったのかな、ちゃんと今、息子は家族にご飯をつくることもあるんですって。私にはつくってくれたことないんだけれどね。「とても上手ですよ」っておヨメの言葉よ。今考えるとね、何も言わなくてもちゃんと頭の中に入っていたのよね。
料理と音楽が似ている理由
――ご長男はロックバンド「TRICERATOPS」のヴォーカル・ギター、和田唱さんです。食卓では音楽が流れている環境でしたか?
平野:それはナマ歌よ。私と和田さんがご飯を食べてるとさ、息子がギターでポロンポロンって弾いて歌ってくれるのよ。和田さんが「かっこいいね、イタリアのレストランみたいだね」なんて言って。間違えないからとっても上手でいい気持ち。
もっと小さい時の話だと、和田さんが家で洋楽のDVDやジャスとかフランク・シナトラを流してるのよね。家にCDやDVDはメチャクチャいっぱいあるの。音楽と洋画だらけよ。でも息子に曲についての説明は一切ナシね。物心ついたときには、自然と音楽と洋画の中にいたんじゃない?
――レミさんはシャンソン歌手としての活動もされています。和田唱さんと音楽についての会話もするのでしょうか?
レミ:私はよくピアノの音に合わせて、でかい声で歌を歌っちゃったりしてる時、息子が「ここは声を張らないほうがいいよ」とか「ここはグッと抑えて、小さい声で歌ったら」とか言うのよ。生意気に私にコメントするのよね(笑)。
――音楽と料理で通ずることはありますか?
レミ:音楽と料理は似てるのよ。両方とも、気持ちを込めると歌も料理も上手にできるのよ。
私が料理をつくって、誰かに「おいしい」って言われるじゃない? その言葉はパチパチって手を叩いてもらっている気分になるの。あと私がどこかで歌を歌って、ものすごい拍手をもらったときもやっぱり嬉しい。お料理も楽しいけどね、歌の世界も楽しくて大好き。でも、今はもっぱらお料理一筋ね。だから森山良子さんなんか幸せだと思うな。大ホールでみんなから拍手もらっちゃって。私が料理つくったって、目の前の人の数人じゃない?
――レミさんのファンはすごく多いと思います。
レミ:テレビの向こうには、何十万もの人たちがいて。私の料理をつくって「おいしい」と言ってくれてるかもわからないけどね。直接の反応が無いのが歌手とは違いますよね。
電車に乗っていたら知らない女性が「レミさんですか?」と話しかけてくれてね。「レミさんの料理、大好きなんですよ」「うちの亭主がおいしいって言っていました」とか言われちゃうとさ、もう何にも知らない人同士が急に仲良くなれちゃうのよね。これはね、すごい力よ! 名前も何も知らない、どこに住んでるかも知らない人。でもベロだけの「ベロつながり」でさ、絆ができるの。音楽も料理も、感動させられちゃうのはいいわよね。