才能か努力か、センスか練習かーースキージャンプに必要なものを教えてくれる小説たち
仁木英之『水平線のぼくら 天使のジャンパー』(角川春樹事務所)にも、ひとりの天才少女ジャンパーが登場する。高橋麻巳。彼女は若いころからノルディック・スキーの選手として活躍していたらしい。もっとも、麻巳が今いるのは雪国からは遠い奄美大島。そこで麻巳は桐隆文という高校2年生の少年や、幼なじみの鼎英見が所属している水泳部へとやって来て、英見に水泳の勝負で挑んで勝利しノルディック・スキー部を立ち上げる。
南の島のノルディック・スキー部ということで周囲も沸き立ち、メディアの興味も誘って結構な話題となっていく。ジャマイカのボブスレーチームを描いた映画『クール・ラニング』にも似た状況。もっとも季節は夏に向かっていて、雪の上でスキーなんて出来ないとなった時、麻巳はローラースキーの道具を持ち込み、山口県で開かれるローラースキーの大会で入賞して、隆文の親戚にジャンプ台を作ってもらおうとする。
少年少女がやりたいことに向かって突き進む青春ストーリー。それが、クライマックスになって一気に様相を変えるところが面白い。そうだったのかという驚きと、そうってしまうのかという寂しさが浮かんで自然と涙がこぼれる。麻巳は再び飛ぶことができたのか。麻己にとって飛ぶことはどういうことなのか。アスリートが競技に向ける思いの強さを感じられる作品だ。