“スマホ脳”になるメカニズムとその対処法は? デジタル社会による「脳のハッキング」を考える

スマホ脳になるメカニズムと対処法

 私たちの脳はハッキングされている。

 そんな衝撃的な警告を鳴らすアンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)は、2021年年間ベストセラー(日販調べ)で新書ノンフィクション部門第1位に、総合でも第2位に輝いた。

 スマートフォンが脳に与える影響をつまびらかにする現代人にとって耳の痛い内容ながら、本書はなぜ多くの人に読まれたのか? その要因として考えられるのが、スウェーデンの精神科医である著者によって解き明かされる、人間が“スマホ脳”となるメカニズムの興味深さだ。

 まず本書において大前提となるのが、「脳はこの1万年変化していない」という意外な事実である。人類はその長い歴史において99.9%の時間を、生き延びて遺伝子を残すべく狩猟や採集に費やしてきた。そこで重要な役割を果たしたのが、人間に行動する動機を与える脳内物質ドーパミンだ。たとえば、お腹が空いている時に食べ物を見て「食べたい」という衝動に駆られるのは、ドーパミン量が増えることによって引き起こされる。人類はドーパミンによって生存へと突き動かされてきたのだ。

 スマホは、この物質を増やすのにうってつけの装置である。インターネットで次のページに進みたくてリンクをクリックする。通知音を聞いて、更新内容を確認しようとアプリを開く。「いいね」が付いていないか気になって、SNSをチェックする。スマホを持っている人なら誰もがしたことのある動作。その裏で働いているのは、狩りを成功させたい、猛獣から逃れたいと、生き延びるための情報を欲してきた人類の新しい知識を求める本能。そして、未知の情報を前にしてドーパミンが放出されることで生まれる「知りたい」という欲求である。

 しかもIT企業はこうした脳の仕組みを踏まえたうえで、ユーザーをスマホやタブレットに依存させるシステムを開発している。デジタル社会において、我々の脳はハッキングされる危険に常に晒されているのだ。

 ガラケー歴20年、スマホに変える半年ほど前まで周囲に時代遅れの人間扱いされてきた筆者としては、こうした事実に恐ろしさより安心感を抱いたりもする。獰猛な動物に絶えず注意を払い、落ち着かない日々を送っていた太古の時代。その頃のように、着信音や通知画面を気にして1つの物事に集中できないスマホユーザーたち。そちらの方が最新の機器を使っていながら、実は退化しているようにも見えてくるからだ。みんな今日も忙しなく生きているのだろうか、寝る前にSNSをチェックしておこう……。

 睡眠障害の診断を受けた若者の数が5倍に。精神科医を受診したり、向精神薬を処方されたことのある10歳〜17歳の割合が倍に。ライフスタイルのデジタル化が進む、ここ10年の間に起きた統計上の異変。それを基にスマホを手放せない若者を中心とした人々の脳に、何が起きているのかを推測していく著者。だが研究者たちによって知識が構築されていく間にも、テクノロジーは研究を上回るスピードで進化する。脳をハッキングされないためには、自衛するしかないのが現状なのである。

 そこで著者はデジタル社会への対抗策として、散歩やランニング、筋トレなど定期的な運動を提案する。少し体を動かすだけでも集中力は高まり、ストレス予防にもなる。運動がもたらす効能をより深く知りたいという人には、本書の著者が子供向けに執筆した『最強脳―『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業―』(新潮新書)がオススメ。運動はスマホ脳を改善するだけでなく、多くの場面で有益なことが明らかとなる。

 あらゆる機能が詰まったスマホに対抗するかのように、スマホがもたらすデメリットを全部乗せで紹介していく本書だが、少し意地悪な疑問も頭をよぎる。頭脳明晰になる、睡眠の質が上がる、ストレスや不安が減る。スマホを我慢することで得られるメリットは確かにあるにしても、便利で時間つぶしに最適なスマホの魔力に打ち勝つほど魅力的なメリットなのか、と。



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