『しあわせは食べて寝て待て』グルメ漫画としての新しさとは? 心身の健康に向き合う薬膳の力

『幸せは食べて寝て待て』の新しさ

強調されるさとこのしあわせ

 2021年11月25日に発売された第2巻では、過去にさとこが務めていた会社で働く人物の状況について、同僚である小川の口から明かされた。小川によるとさとこの2歳年上であり、とくに病気を患っていなかった桜木が勤務中に体調不良を訴え、そのあと亡くなってしまったらしい。

 過労によるものと推測された桜木の急死は、さとこに大きな衝撃を与えた。薬膳に触れ人々と親睦を深めながら自分のペースで日々を過ごすさとこの姿は、病気を患う前には同じ境遇であった桜木と対比する。

 さとこが感じた食材に含まれた栄養を知ることや食べることによって、自身に現れた効果を実感する悦び。団地や新しい職場で出会う人々との交流から覚える、忙しい日々では感じられなかった心情。ときに悩みを抱きながら過去の自分と比較して再認識する、今の暮らしから得ているしあわせーー。作中で具体的な死が描かれているからこそ、さとこが生きるなかで得たしあわせは強調される。

 生きることは死ぬことと隣り合わせであるものの、その事実を実感することは少ないはず(もちろん、常に死の存在を意識する日々は気疲れしてしまいそうだが……)。本作は登場人物の様々な人生を通じて、日々を健康に過ごすためには欠かせない食事の価値、そして死と隣り合わせの人生であるからこそ、健康に日々を過ごすことができるしあわせに気づかせてくれる。

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