『動物のお医者さん』が社会に与えた影響とは? 一貫して伝え続けたペット飼育の責任

『動物のお医者さん』が社会に与えた影響

『動物のお医者さん』は動物の飼育が簡単だと言っていない

 まるで『動物のお医者さん』がハスキーブームを煽ったかのような書き方をしたかもしれないが、『動物のお医者さん』は動物の飼育が簡単だとは言っていない。

 むしろ、一貫して、いかに動物の飼育が大変で責任が伴うのかを書いている。ハスキーの性格にしても、「チョビが特別なだけ」ということは再三にわたって触れられており、陽気で騒がしく人見知りもしない犬ぞりレース出場犬のシーザー率いるハスキー軍団が標準のように描かれている(はずだ)。

 捨てられた動物を引き取った人々が苦労しつつも根気強く付き合う様子や、可愛いからといってモモンガを安易に飼育しようとしてはいけないことなども描いている。『ラスカル』によって訪れたアライグマブームと後の問題を直接的には書いていないが、病院の待合室にアライグマを連れてきている飼い主が小さく描かれていることもあり、さりげなく「捨てない。最後まで面倒を見る」を啓蒙している姿勢も伺えうことができる。

 ハスキーブームが起こってしまったことは作者の佐々木倫子氏にとって、決して喜ばしい流れではなかったのではないだろうか。

コンテンツの影響力を考えるきっかけに

 そして、獣医師免許をとってムツゴロウ王国に就職したいと考えていた幼い頃の筆者は、『動物のお医者さん』を取り巻く一連の社会現象をみて、北大進学の夢をひとまず横に置いて、メディアの影響力と動物愛護について深く考えるようになった。ライターになったのは『動物のお医者さん』だけが理由ではなく、複合的な理由からきているが、きっかけのひとつになったことは紛れもない事実なのだ。

 初めて『動物のお医者さん』を読んだ日から、25年近くが経過した。その間に、日本経済は元気を失い、ムツゴロウ王国は北海道から東京に拠点を移し、再び北海道に戻って行った。さまざまな動物に囲まれていたムツゴロウさんの元には、犬1頭と猫1匹だけがいるらしい(自分より長生きするだろうと言っていたインコはどうなったんだろう…)。

 このコラムを書くにあたり、久しぶりに『動物のお医者さん』を読んでみた。キャラクターが流行に流されない服装や性格だからか、古さを感じさせることなく、今でも変わらず楽しめた。ただ、バブル当時と今では読み手の意識が違う。

 どちらが良いのかはわからないが、筆者は目指さなかった北大と獣医の夢を追いかけていれば、どんな人生になったのだろうと思いを巡らせた。

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