「ねぇ私綺麗……?」からはじまる怪異ものと男子高校生の恋物語 『口が裂けても君には』がかわいい
気が付くとマスク姿の女性が立っている。「……ねぇ私綺麗?」マスクをはずすと、耳まで裂けた大きな口が現れて……。
口裂け女。年代や地域によって語られている内容はさまざま。筆者が知っている内容としては、「私綺麗?」の質問に「はい」と答えると鎌で口を切り裂かれてしまう、「いいえ」と答えると鎌で斬殺されてしまうというものだ。あと、口裂け女は足が速いので、逃げるための呪文(ポマードと3回唱える)があるという話も……。たしか学校の怪談シリーズとしてトイレの花子さん、動く二宮金次郎像などと同様に語られていたように思う。
『口が裂けても君には』は、そんな口裂け女が主人公の恋物語である。
口裂け女がヒロイン、でも怪異ものラブコメだけではおさまらない
ヒロインのみろくは、かつて一世を風靡した都市伝説の”口裂け女”。しかし、現在では人々の記憶から薄れ、かつての力を取り戻すために特殊な人間の一族である茶乃家に嫁ぐことになった。厳密にいえば、みろくは茶乃家の力を借りずに自分で力を取り戻したい、結婚には納得していないので、お試し夫婦として茶乃家当主である紅一と1年間暮らすことになった。そして、お試し期間中に紅一を怖がらせることができれば、婚約破棄にできるという契約を交わした。ところが、紅一はみろくへの好きが溢れてしまっている状態だ。みろくが紅一を恐怖に落とすのが先か、紅一がみろくを恋に落とすのが先か……口裂け女と男子高校生の婚約生活(仮)がはじまる。
口裂け女がヒロインという怪異ものラブコメだが、日常的なイチャラブにはとどまらない。読み進めるうちに、なぜ紅一がみろくを好きなのか、実は茶乃家にはいろいろな家の事情や謎に包まれた過去があり、そして口裂け女のような怪異もの界隈にはいろいろと闇があるようだということがだんだんとわかってくる。紅一の両親はどうしているのか、昔から紅一の世話係であるウダ、みろくの弟?であるミコト、みろくを狙う陰……などこれからが気になる伏線が多数用意されている。