藤本タツキ×林士平が語る、漫画家と編集者がタッグを組む意味 「ひとりで描いてるようで、そうではない」

藤本タツキ×林士平が語るタッグの強み

 「次世代のスター漫画家」を発掘するために、「少年ジャンプ+」が創設した新漫画賞「MILLION TAG」(https://sp.shonenjump.com/p/sp/million-tag/)が、いま注目を集めている。同賞は、選考を経て選ばれた新人漫画家が、集英社の漫画編集者と6組の「タッグ」を組んで、4つの課題に挑むというもの。

 その過程は、バトルオーディション番組として配信され、優勝者には、賞金500万円、「少年ジャンプ+」での連載、作品のコミックス化、1話分相当のアニメ化が確約されている(賞金額も、漫画賞としてはかなり高額だ)。

 なお、現在、「MILLION TAG」は優勝者を決めるためのラストスパートに入っており、ますます目が離せない状態である。そこで今回、同賞に参加している編集者のひとりである林士平氏(「少年ジャンプ+」副編集長)と、同賞の最終課題審査員を務める漫画家の藤本タツキ先生に、あらためて、漫画家と編集者がふたりで漫画を作ることの強みについて伺った。『チェンソーマン』などのヒット作を生み出したふたりは、漫画制作においてどんな哲学を持っているのか。(島田一志)

藤本「デッサンやクロッキーをかなり集中してやりました」

藤本タツキ

――まずはおふたりの出会いについてお話しください。

林:そもそもは、藤本先生が「ジャンプSQ.(スクエア)」の月例賞に投稿してくださった作品を見て、若さとトガっているところに惹かれて、連絡をとったのが始まりでした。そのあとしばらくは電話とメールでやりとりをして、1年くらい経った頃に初めて会いに行ったと記憶しています。

――藤本先生はなぜ、数ある漫画誌の中で「SQ.」を目指したのですか。

藤本:父がもともと「ジャンプSQ.」と、その前身の「月刊少年ジャンプ」の愛読者だったんですよ。つまり、子供の頃から自然に家に転がっていたわけで、無意識のうちに自分の中で「漫画誌=SQ.」みたいな感じになっていたんだと思います。

――お互い、初めて会った時の印象を覚えていますか。

林:あらためて、やっぱり若いな、と(笑)。

藤本:だってあの頃、まだ18歳とかですよ(笑)。

林:まあ、実際に若かったけれど、なぜかいまだに藤本先生といえば、「若い人」という印象があります(笑)。ちなみに編集者と会ったのはあの時が初めてだったんだよね?

藤本:ええ。ただ、実際にお会いするのは初めてでしたが、その前の電話やメールでのやりとりで林さんがどんな方かだいたいわかっていたので、それほど緊張はしませんでした。

――藤本先生が、新人時代に林さんからもらったアドバイスで、何か印象に残っていることはありますか。

藤本:「とにかく画力を上げてほしい」と何度も言われました。これは僕だけでなく、林さんは他の新人さんにもよく言っているようですね。幸い僕は美術系の大学に通っていましたから、デッサンやクロッキーを、漫画に活かすためにかなり集中してやりました。

林「作品に向き合う漫画家と編集者の真剣さを見てほしい」

林士平

――それでは、本題の「MILLION TAG」について伺いたいと思います。私も毎回、一視聴者として番組が更新されるのを楽しみにしていますが、漫画作りの舞台裏が見られて、ドキュメンタリーとして、とてもおもしろい企画になっていますね。

林:そう言っていただけると、参加者のひとりとして嬉しく思います。賞や番組の主旨としては、まずは6組の新人漫画家さんたちのがんばってる姿を見てほしい。そして、それと同じくらい、僕ら集英社の漫画編集者が、いかに真剣に漫画と向き合っているのかも見てほしいですね。そういう姿を見てくれたら、「漫画を描きたい!」と思う若い人たちが増えてくれると考えています。

藤本:あの番組に映し出されているのは、僕らにとっては日常的な光景ですけど、たぶん多くの人たちにとってはかなり新鮮なものなのではないでしょうか。「漫画の編集って何をやってるんだろう?」と思っている方も少なくないでしょうから、それが見られるというだけでも貴重な映像です。編集者と漫画家がタッグを組んで、作品を作り上げるまでの過程というのは、それ自体が「物語」として成立しているんです。

林:番組を見ていただければ一目瞭然ですが、漫画家さんも編集者も、6組いれば6組の個性がある。結局、漫画作りに決まったノウハウみたいなものはないんですよ。

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