【漫画】猫と幽霊の過去にいったい何が? Twitter漫画『渚は海の夢を見る』が切ない

ーー物語に隠されていた部分が明かされていくなかで、驚きとあたたかな気持ちを覚えた作品でした。創作のきっかけを教えてください。

鯨庭:本作は以前に没となったものをブラッシュアップした作品です。自分はシーツを被った幽霊のキャラクターが好きで、幽霊を主人公に作品を描きたいと思い『渚は海の夢を見る』をつくりました。

 また漫画を描く際には、人と人以外の生き物の、ふたりぼっちな関係を描きたいと思っています。本作では幽霊と関係をもつ相手として、なにもないところを見つめているイメージのある猫を選びました。

ーーなぎさのしっぽをつかんでいるときだけ幽霊が動けるという設定にした背景を教えてください。

鯨庭:お話に猫を登場させるからには、猫がいるからこそ成立するものにしなければいけないと思っていたからです。作中に登場する幽霊は地縛霊であるためその場に留まっているけれど、猫のしっぽを掴んでいるときだけ動くことができる。そんな設定にすることで、猫がいるから物語が動き出せるようにしました。

ーー海にたどり着くまでの道のりで垣間見える真実の断片が、終盤できれいに組み合わさる点に感動を覚えました。鯨庭さんの物語のつくり方を教えてください。

鯨庭:最初にラストシーンを決めています。マラソンはどこにゴールがあるかわからないと終われないですよね。私は漫画も同じだと考えています。最初に物語の着地点を決めて、ゴールまでの道のりに自分が描きたい場面を、まるでパズルのように埋めながらお話をつくっています。

 ただ自分がお話をつくっているというよりも、お話が降りてきているみたいな感じなんです。たまたまラッキーで物語をつくることができているような……。漫画を描いているというよりも、既に存在している物語を、たまたま自分が書記係として描いている感覚を覚えることが多いです。

ーー性別や性格など、幽霊はどんな人物だったのでしょうか。

鯨庭:幽霊がどんな人物だったのかという設定は決めていませんでした。漫画を描くにあたり、キャラクターの設定を細かく決めなければいけないという意見をいただいたことがあります。しかし私はキャラクターの人物像が完全に見えなくてもいいのではないかと考えています。なぜなら読者さんがキャラクターを補完してくれるからです。

 本作をTwitterに投稿した際、「自分のペットを大切にしよう」「ペットよりも長く生きないと」など、動物を飼ったことのある読者さんから多くの感想をいただきました。私は幽霊が成仏する話を描いただけであり、動物に関することを啓発しようとする意識はありませんでした。性別さえも特定できないほど幽霊の中身が見えなかったからこそ、読者さんは幽霊に自己投影することができたのではないかと思います。

ーー鯨庭さんの手掛けるほとんどの作品に動物が登場しているかと思います。動物を描く際に意識していることを教えてください。

鯨庭:私は『ポケットモンスター』がすごく好きで、動物や架空の生き物が好きなんです。お話に登場する生き物が実際に生きていてほしいと思いながら、現実に存在する動物はよく観察してリアルに描くことを意識しています。架空の生き物は現実に存在していませんが、モデルとなったと考えられる生き物を観察していますね。

 TVなどで犬や猫を見かけるなかで、人間のような表情をする瞬間があると感じています。無言のコマが続く本作の終盤では、なぎさが幽霊は”うみ”だったと気づいたときの感情を、表情や素振りで表現することを意識して描きました。

ーー動物や架空の生き物のどんなところに惹かれるのでしょうか。

鯨庭:小さいころから好きだったので……。ただ好きだから、という気持ちでしかないかなと思います。

 実は、私は動物を描きたいから漫画を描いています。本当は人間を描きたくなくて……。できるなら動物だけを描きたいんです。でも描こうとしているテーマは人間独自の感情や、哲学的概念であることが多いし、人間を出すことによって読者である人間の共感を得られやすいので、作品には人間も登場させています。

ーー鯨庭さんの作品は、生と死を描いているものが多い印象を覚えました。

鯨庭:意識したことはあまりないです。ただ、人間と人間じゃないなにかの、刹那的な、一瞬の関わりを切り抜いて漫画として描いているので、作品のテーマが生死に限りなく近づいてしまうのではないかと思います。

 人間と動物は姿かたちや食べるもの、そして生まれてから死ぬまでのスピードも違うため、書記係としてお話の世界にのめり込むほど、動物の生死スレスレの部分を見ることになっちゃうのだろうと思います。

ーーこれからの目標について教えてください。

鯨庭:現在トーチwebで連載している『言葉の獣』をきちんと描きたいです。動物園のグッズや動物の支援活動に携わりたいです。製作したものがチャリティー活動の資金につながるような活動ができたらと思っています。また漫画はもちろん、小説の挿絵や雑誌などで動物の絵を描けたらうれしいです。

※作品の続きは鯨庭さんのTwitterでhttps://twitter.com/KUJIRABA/status/1456215988173561856

鯨庭さんが手掛ける漫画『言葉の獣』はこちら!
http://to-ti.in/product/kotobanokemono

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