『ONE PIECE』ワノ国編は世代交代の物語? 単純化を拒む“過剰な豊かさ”が100巻到達の鍵

『ONE PIECE』単純化を拒む“過剰な豊かさ”

 一方、カイドウとは違う意味で面白い存在がビッグ・マムだ。彼女の動きは予測不能で、一時的に記憶喪失となり善人に変わったかと思うと、記憶が戻れば、元の悪役に変わるというギャグ漫画のキャラクターのようなデタラメな動きを見せている。

 カイドウと同盟を組みルフィたちに襲いかかったかと思うと、記憶喪失になった時に優しくしてくれた少女・お玉と再会し、彼女の暮らす「おこぼれ町」をカイドウの手下が燃やしたことを知ると、同盟関係にある百獣海賊団を攻撃する。だが、麦わらの一味といっしょにお玉を逃がそうとすると「おれァ“去る者”が大嫌い……!!!」といって、お玉を殺そうとする。彼女の情緒は不安定で、その場の気分によって暴れる。人間というよりは荒ぶる邪神といった佇まいで、見方によってはカイドウよりも厄介な存在だ。

 ふつうのバトル漫画なら作者が持て余してもおかしくない存在だが、彼女の予測不能な動きは『ONE PIECE』に奇妙なユーモアを与えている。単純化すればカイドウは父性、ビッグ・マムは母性の暗黒面の象徴と言える存在で「ワノ国編」は、ルフィたち若者がこの2人を倒す世代交代の物語だと言える。だが、そういった図式を飛び越える過剰さがカイドウとビッグ・マムにはある。

 単純化を拒む“過剰な豊かさ”がキャラクターに込められているからこそ、『ONE PIECE』は100巻に到達することができたのだ。

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