テリー伊藤が語る、おもしろい演出の極意 「厄介な人はいつの時代でもいて、僕は好きなんです」

テリー伊藤が語る、テレビとネット

YouTubeはどっきりカメラ的な感じになっちゃってる

ーー80年代、90年代の頃と比べると、テレビの作り手の変化や見る側が厳しくなった感じはありますか。

伊藤:見る側というか、恐らくスポンサーだろうね。今と昔では違う点が2つあると思っていて、まず、SNSで視聴者がいくらでも意見を言える。もう1つはスポンサーに直接苦情がいく。この2つがあるから、スポンサーもビビりますよね。昔は苦情がテレビ局にきて、テレビ局が「はい、はい~、あ~、どうもすいませんでした~!」って対応して終わってたんですよ。なかなかスポンサーまでは行かなかった。テレビ局が悪いというよりは、SNSとスポンサーという2つの大きな壁があることによって、がんじがらめになってるのが現状なんじゃないかなと思いますね。

ーーそこに来るとテレビよりはYouTubeのほうがスポンサーからは自由そうです。テリーさんもチャンネルをお持ちですが、YouTubeについてはどう思われますか。

伊藤:俺はあんまり人のYouTubeは見ないからなんとも言えないんだけども。YouTubeの人は、持続力がないかもしれませんね。箇条書きっぽくて、4コマ漫画で終わっているところがあると思う。3分とか5分で終わっていくものが多いから、タメがあんまりなくて、基本的にどっきりカメラ的な感じになっちゃってるよね。長編小説とまでは言わないけど、これをやったから次がこうだという継続性が足りないかな。

ーーおっしゃるように長編小説的な面白みのあるものは、なかなか生まれにくいフォーマットだと思います。

伊藤:それはそれでいいんだけど、俺たちは2ヶ月ぐらい先まで考えてるわけね。将棋みたいなもので、お笑いは6手ぐらい先まで考えることも大事なところがあって。それにはある程度予算もなくちゃいけないし、だからテレビからYouTubeに移行するかっていうと、そうでもないような気がするね。それと、YouTubeの人たちって自分でやるでしょう? 自分がやる能力と誰か優秀な人を持ってきてやる能力とは、また違うんですよ。自分で歌うのと、歌唱力のあるMISIAみたいな人と、同じ歌でも全然違うから。そうした優秀な人を使って、今度は優秀な演出家とやれば、さらに化学反応が起きる。作家と演出家とタレント。この3つが重なることによって、いちばん良いものができるんですよ。

ーーそういう点がテレビとの違いなんでしょうか。

伊藤:これはしょうがないなと思うのは、モーニング娘。あたりから、自己演出がうまくなってきたの。自分でセクシーを演出できる。今、TikTokなんかみんな自己演出しすぎてるよね。面白いんだけど、それはあくまでも自己演出なんですよ。これは歌と一緒で、作詞作曲して歌ってる人たちも、あるときから限界が来る。でも、ものすごく優秀な作詞家や優秀な作曲家とコラボすることによって、さらに良い歌が作れる。そういうことができるとYouTubeも面白くなると思う。

 でも、じゃあテレビはコンプライアンスがあるからつまんないかって言うと、そうでもないんだよね。つまらなくなったといったって、今でも絶対的なメディアですよ。予算が違うし、優秀なスタッフも揃っている。ただ、その形は変えていくかもしれないね。

ーーたしかに、ウェブメディアはテレビでの発言をニュースにしていたり、結局、テレビの中の話をみんなインターネットでしてますよね。

伊藤:それは誰かが発言したことに対して、ネガティブなことで盛り上がるんですか。

ーーネガティブなことで盛り上がるケースの方が多いですね。

伊藤:そこがいちばんダメなとこだね。便所の落書きみたいなことに興味を持ちすぎてるのが、不健康な感じがしてしょうがないよ。だから、俺は一切見ないんです。自分の感性が濁るから。でも、テレビもずるいのは、今ネットではこんなことが話題だとか言って自分が主役にならない。後で批判を受けないためにネットをまず盾にするわけ。お互い様だよね。このへんてこりんな関係が、すごく気持ち悪い。

ーー先ほどもおっしゃっていましたが、土俵際にいる人を助けるふりして叩いてるみたいな風潮がありますね。不倫とかでも当人同士の問題なのに全然関係ない人が石を投げて、むしろ深刻にしていたり。

伊藤:俺はそれを“正義の押し売り”って言ってるんですよね。正義の押し売りばっか。

ーーところで、早朝ソープという看板から早朝バズーカを思いつかれた話もありますが、企画の発想法としては、いろんなところから面白い素材を集めようという意識だったんでしょうか。

伊藤:いや、集めようという感覚はなかったですね。今、こう話している中からもアイデアは出てくるものですよ。あと、お笑いというジャンルが広くなっていったから、なんでもネタにできたんじゃないかな。さっきもちょっと話した『お笑い北朝鮮』は、金日成の息子の金正日のことを面白いと思って、「お笑い」って言葉を使ったわけだよね。政治家を面白いとか、北朝鮮を面白いなんていうのは、あの当時、誰も思わなかったわけじゃない?

 昨日も面白いことがあって、原宿にお店を出すカリスマ美容師のショーを見に行ったら、すごいショーだったんですよ。お金もかけてて。モデルがみんな男前でEXILE系なんです。いい体してて、ジムのインストラクターもやってるの。あとは13センチのヒール履いてる子たちとか。最高でしょ? それをかっこいい美容師の連中がカットしてくわけだけど、彼らも途中で脱ぎ出してさ、日焼けしてタトゥーしてるの。見ていておかしくてしょうがなくて、最高だなと思って(笑)。

 でも、お客さんはその世界にどっぷりハマっているから、彼らのことをかっこいいと思うわけじゃない? これをかっこいいと思うのか、ちょっと引いた視点で面白いと思うのかの差があるわけ。さっきのYouTuberでいえば、自分が主役だと、この面白さを見つける力がないわけだよね。そこが目のつけどころなのにさ。

 とにかく、彼らはバラエティーの素材としては最高でしたね。昔、フジテレビでやってた『シザーズリ―グ』のようなカリスマ美容師とは全然また違う。あれから20年経ってるから、時代はずっとどんどん変わってきてるな、と思いましたよ。

■書籍情報
『出禁の男 テリー伊藤伝』
定価:2,750円(本体2,500円+税10%)
発売日:2021年8月20日
判型:四六判  
頁数:408頁

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