『坂道のアポロン』小玉ユキが描く、ままならない大人の恋 『青の花 器の森』に胸が苦しくなる
自分のやりたい仕事か恋か、わりきれない、それも運命か
少しずつお互いに認め合っていく2人だが、それぞれに抱える過去のしがらみがある。過去の出来事で怖い気持ちが出てしまった龍生に、「人の気持ちってそう簡単に切り替わらんし。傷が深いなら、その分時間かけて治さんと」と言った青子。それは過去の出来事で心にしこりが残る青子も同じだった。
単純に仕事と恋と、過去と、わりきれない。離れられない気持ちを抱え、気持ちだけで身をゆだねてしまいそうな場面でも、ぐっと揺らがないようにと考えてしまう。傷が深い分だけ不安に思って、信じきれずにいてしまう、その気持ちが今後の2人をどのように変えてしまうのだろうか。
「俺が作った形だって焼けば失敗するかもしれない。いい物ができると信じていれば無駄な作業なんてないです。失敗は怖がらずに続けましょう」と作品を作りながら青子に言った龍生の言葉が、ふと印象に残った。2人の関係も同じように、お互いを信じて、もう少しの勇気が出せたらいいのに……と。
漫画の世界を堪能、生活の一部にも
長崎県波佐見町で多くの窯元が残る中尾山は作品の舞台ともなっている。青子と龍生がお昼ご飯を一緒に食べた眺めのいい登り窯跡(中尾上登窯跡)や桜陶祭、波佐見陶器まつり、秋陶めぐり、はさみ温泉湯治楼、鬼木の棚田なども実際に波佐見にある場所だ。長崎に遊びにいった際には、こうした聖地巡礼も楽しみたい。気軽に旅行に行くことのできない今、波佐見焼きのオンラインショップで漫画の世界に浸るのもいいのではないだろうか。
■書誌情報
『青の花 器の森』1~8巻(フラワーコミックスα)
作者:小玉ユキ
出版社:小学館