『鬼滅の刃』柱合会議の前後で変化したものとは? 群像劇へのシフトを考察

『鬼滅の刃』「柱合会議」前後で変化したもの

※本稿には『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)の内容について触れている箇所がございます。原作を未読の方はご注意ください。(筆者)

 社会現象的な大ヒットを記録した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のテレビ初放送(9月25日)に先がけて、5夜にわたり放送されている『「鬼滅の刃」竈門炭治郎 立志編 特別編集版』(フジテレビ系)。これは、『鬼滅の刃』のテレビアニメシリーズ第1期を5回に分けて編集したものだが、明日(9月23日)、そのクライマックスともいうべき“第5夜”――「柱合会議・蝶屋敷編」が放送される。

 そこで、本稿ではあらためて、その「柱合会議」(厳密にいえば、会議の前に行われた「柱合裁判」)の様子が描かれている、原作の第6巻について論じてみたいと思う。

 吾峠呼世晴の『鬼滅の刃』は、鬼にされた妹・禰󠄀豆子を人間に戻すため、政府非公認の組織「鬼殺隊」の剣士となって、悪しき鬼たちと戦う少年・竈門炭治郎の成長を描いた物語である。

 第5巻までは、その炭治郎が、「育手(そだて)」と呼ばれる育成者のもとで剣の修行を積み、過酷な試験を経たのちに鬼殺隊に入隊――そして、我妻善逸・嘴平伊之助という同期の仲間たちとともに、命を賭して鬼と戦っていく様子がおもに「主人公目線」で描かれていくのだが、第6巻以降は、それまで基本的には一本だった物語全体を見渡す「目線」が、いくつかに枝分かれしていく。つまり、そこまでは炭治郎の主観で進んでいた物語が、徐々に、複数のキャラクターの視点を織り交ぜながら描かれるようになっていくのだ。

 むろん、それでもなお、「主人公の成長」が物語の大きなテーマであるということに変わりはないのだが、複数のキャラの視点が加わることにより、当然、ある種の読者は第6巻を境にして、炭治郎以外のキャラクターにも“肩入れ”しながら、物語を読み進めていくことになるだろう。

 具体的にいえば、それは、そこから先の『鬼滅の刃』が、(「少年ジャンプ」の“お家芸”ともいうべき)「複数の主役級のキャラたちによるチームバトルの物語」へとシフトしていったということである。そしてその大きな“方向転換”は、結果的に読者それぞれにとっての(主人公以外の)“推し”のキャラを複数生み出すことに成功し、それは、作品全体の人気の底上げにもつながっていった。

 たとえば、第6巻収録の第44話のラストシーン、あるいは、第45話の扉ページを見られたい。そこでいきなり、見開きの大ゴマでずらりと並んで登場した「柱」たちの姿を見て、“ここからはじまる何か”を期待して、ドキドキしない漫画ファンが果たしているだろうか。

 ちなみに「柱」とは、鬼殺隊最強の剣士に与えられる称号のことであり、第45話の扉ページの段階では全部で9名いるのだが、そのうちの7名については、そこに至るまでなんの説明もなされてはいない。だが、“説明がない”からこその迫力や期待感というものはたしかにあるだろう。

 いずれにせよ、この瞬間から、『鬼滅の刃』は、主人公の竈門炭治郎だけでなく、9人の「柱」と同期の隊士たち全員が、ほぼ同格の存在として物語を動かしていくことになる。そしてそれに伴い、“敵役”となる鬼の側でも、主人公サイドのキャラに匹敵するような“個性”を持った魅力的なヒールたちが作られていった(それにより、悪の側にも多くのファンがついていくことになる)。

 なお、私は先ほど、こうした物語(ないしキャラクター)の作り方を「『少年ジャンプ』の“お家芸”」だと書いたが、ルーツを辿ればそれは車田正美の『リングにかけろ』ということになるだろう。そしてその「複数のキャラによるチームバトル」を描いた作品のヒットが、少年漫画の新しい方法論(ヒットの法則?)のひとつを生み、それはのちに車田の『風魔の小次郎』や『聖闘士星矢』でより強化されただけでなく、他の著者によるジャンプ系作品――たとえば、『キン肉マン』(ゆでたまご)や『DRAGON BALL』(鳥山明)、『幽☆遊☆白書』(冨樫義博)といった作品でも、多かれ少なかれ活かされていったわけである。

 さらには、その“現在進行形”が芥見下々の『呪術廻戦』だといえるだろうし、「少年ジャンプ」連載作ではないが、いま最も漫画界で注目を集めている作品のひとつである『東京卍リベンジャーズ』(和久井健)もまた、キャラ作りのうえではこの方法論を大きく取り入れているといっていいだろう。(ちなみに、厳密にいえば、この種の「チームバトル物」のルーツは、山田風太郎の「忍法帖シリーズ」――特に『甲賀忍法帖』だといわれており、それに影響されたとおぼしき横山光輝の『伊賀の影丸』や、また、「チーム」という点では、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』なども忘れてはならない存在だろうが、文字数の関係で、ここではそれらのタイトルを挙げるにとどめておく[注])。

[注]……山田風太郎自身は、『甲賀忍法帖』を書くにあたり、『水滸伝』を意識したと語っている。(参考:『幻想文学講義――「幻想文学」インタビュー集成』東雅夫 編・国書刊行会)



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