『ゆびさきと恋々』真っ白な純粋さから、アラサーが少女漫画の扉を開く
相手の意思を尊重できる逸臣の魅力
逸臣と雪が出会ったばかりの頃は、目線が合うタイミングがずれてしまって相手に言いたいことが届かない、相手の言いたいことすべてが読み取れないというもどかしさもあった。「ちゅーしたい」を「ぎゅーしたい」とかわいい勘違いのシーンも……。カタカナや英単語は口語では伝わりにくいので、指文字で一文字ずつ伝えるようにするなど、2人にとってのコミュニケーションをすり合わせていく様子が描かれている。
逸臣が雪とやりとりする上で印象的なのは、「~する?~しない?」「~嫌?~嫌じゃない?」と雪が答えやすいように聞いたり、声をかけるときにも驚かせないように先に視界に入るようにしたりするシーン。相手が不安にならないように、先に伝えてくれる。なんてことのないような行動かもしれないけど、相手の目を見て意思を尊重できる逸臣の歩み寄り方は、大人からみても素敵だなと思う。そして、「俺を雪の世界に入れて」と、シンプルにストレートに伝える逸臣。しっかりと伴う行動にもきゅんとする。
コミュニケーションの基本ともいえる、相手に興味を持つこと、相手のことを知りたい、相手に伝えたいという気持ち。大人になると、殺伐とした日常でこうした気持ちは忘れてしまいそうになるかもしれない。嬉しいと言ったときに笑えているだろうか、わくわくするような気持ちを素直に表現できているだろうか。『ゆびさきと恋々』を読んで改めて、自分も雪と逸臣のようでありたいという気持ちに気づかされる。
「ゆびさきと恋々」は現在5巻まで発売中。今後の二人を、引き続き見守りたい。
■書誌情報
『ゆびさきと恋々』1〜5巻(デザートコミックス)
作者:森下suu
出版社:講談社