『ゆびさきと恋々』真っ白な純粋さから、アラサーが少女漫画の扉を開く

アラサーがときめく少女漫画『ゆび恋』

 これまで少年漫画の友情・努力・勝利みたいな作品が好きだった筆者が、35歳を前にして少女漫画にハマりこんでしまった。そのきっかけとなった作品が森下suuの『ゆびさきと恋々』だ。

 ヒロインである大学生の雪は、生まれたときから耳が聞こえない。そこに現れたのが、同じ大学に通う逸臣。語学が堪能で世界中あちこち旅をするバックパッカー、雪に新しい世界を感じさせてくれる存在である。物語はある日の電車内で、雪が困っているところを逸臣に助けてもらうところからはじまる……。

 本作を読むきっかけとなったのは、表紙の美しさに惹かれて。王道の少女漫画は展開が読めてしまってあまり好きではなかったが、読み進めていくと雪の表情の豊かさ、名前の通り真っ白で純粋な可愛らしさがまず印象に残った。なにより、自分の心のなかに少女漫画できゅんきゅんする気持ちがあったことに驚いた。大人が読んでも現実離れしておらず、優しい気持ちになる。以下、この作品の好きなポイントを紹介しよう。

手話だけでなく、雪の表情や身体の動かし方にも注目

 耳が聞こえない人にとってのコミュニケーションは、なにも手話だけではない。慣れ親しんだコミュニケーションの方法は人それぞれ。年代や付き合っている友達、家族、地域環境などによっても違う。作中での雪は手話や口語、筆談、スマホなどを使って、相手と会話することが多い。なかでも印象的なのは、手話でやりとりをする際に表情も大事だということ。手話は面と向かってやりとりするのが基本だが、声から感情が読み取れないために、表情や身体を使って相手に伝えるような雪の姿勢に惹きつけられる。

 例えば、「もっと」仲良くなりたいと雪が逸臣に伝えるシーンでは、親指と人差し指を曲げてコの字を作り、左右の手を上に重ねる動きをする。その手がどんどん上にあがっていく様子には、雪の「もっと、もっと……」という気持ちの強さが溢れている。

 他にも、逸臣が『俺なら大丈夫ってどこまで?』と聞くシーンでは、雪は頭より上から両手で円を描くような動きをして「ぜんぶ」と答える。これは、「ぜーんぶ」という乙女心のこもったニュアンスの描写にしたと、2巻末の解説にも書かれている。同じ言葉であっても、手話の動きの強弱などで、こうして多彩な表現もできるらしい。漫画では手話の動きと表情、身体の動かし方からも雪の心情を読み取ってみてほしい。とにかく身体をめいっぱい使って想いを伝える、そんな彼女が可愛いのだ。



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