『ときめきトゥナイト それから』江藤蘭世はなぜ人を虜にし続けるのか? その魅力を考察

江藤蘭世はなぜ人を虜にし続けるのか?

 集英社が発行する漫画誌「Cookie(クッキー)」で連載中の『ときめきトゥナイト それから』が大きな話題になっています。その理由のひとつは、なんといっても主人公・江藤蘭世にあるでしょう。『ときめきトゥナイト』シリーズは主人公が3回代替わりしていますが、1番人気はなんといってもオリジナルの江藤蘭世。作品の中でも伝説級の扱いをされており、「マリア様」と表現されることのある彼女は、のちに最愛の人と結ばれて真壁蘭世になりますが、他の追従を許さないほどの人気を誇っています。

 それにしても、人気の理由は何なのでしょう。今回は、蘭世というキャラクターを掘り下げてみたいと思います。

江藤蘭世とは

 江藤蘭世がどういう設定か説明するなら、ズバリ一言「愛」。

 それ以外の設定を列挙するなら次の通りです。

 まず、彼女は狼女と吸血鬼を両親にもつ魔界人です。そして勉強が大の苦手。父親がしがない小説家でありながら、金銭的な苦労をしたことがなく、むしろ別荘を保有するほど裕福な家庭に育っています。家族思いで、思春期にもかかわらず反抗期とは無縁。家事が得意で家庭的、共感力が高く泣き虫といった一面もあります。ファッションセンスは決して高くなく、ゆえに、親しみやすさを感じさせます。

 真壁俊を一途に思うことで、最大の武器である「無償の愛」を手に入れた蘭世は、魔界征服をもくろむ冥王ゾーンの攻撃を無効化し、慈悲で倒すことに成功。世界平和を取り戻して救世主となりました。

 番外編『江藤蘭世の悶々』で、真壁俊の命の恩人であるシスター真壁(記憶を無くしたターナに真壁という苗字を与えたのは彼女)に「マリア様…」と呟かれたように、彼女は人間や魔界人という範疇を超えて神格化されているのです。

なぜ蘭世が愛に生きられるのか

 蘭世の愛は、真壁俊だけに止まらず、自分を苦しめた魔界の王子アロンや、強引にアプローチしてきた筒井圭吾、永遠のライバル神谷曜子、そして冥王ゾーンにまで向けられます。その愛情深さは、一体どこから来るのでしょうか。筆者は家庭環境と時代背景、そして真壁俊の夢にあるとかんがえています。

 作者の池野恋先生は、悪役として登場させたキャラクターも、最終的には主人公の友人や良き理解者にしてしまうほどのハッピーエンド好き。その証拠に、登場人物のほとんどに愛すべき設定があり、憎みきれません。当然のように、江藤蘭世の家族もいい人ばかり。母親のシーラは教育ママとして描かれていますが、それは魔界人である蘭世の将来を考えてこそ。父親のモーリは子どもたちを俯瞰で見られる良き理解者です。ふたりは異種族同士で惹かれ合い、大恋愛の末に人間界に駆け落ちしています。自分たちが冒険的で異端な人生を送ってきたために、子どもたちがどんな判断や決断を下そうと、「自分たちだって同じようなものだった」と言いたいことを飲み込むのです。

 シーラは専業主婦でモーリはミステリー小説家。作中で、モーリは『スーパーマント』、『四界伝説』、『アンブレラ殺人事件』を執筆しており、蘭世編では『スーパーマント』がヒットし、映画化に至っています。モーリが得る原稿料は微々たるものだというのは、シーラのセリフから伺えますが、なぜか金銭的な苦労は全くしていない様子。その証拠に、豪邸と海辺の別荘、後に鈴世と蘭世が通う私立セントポーリア学園の学費が払えています。おそらく表向きは小説家ですが、魔界の王家から命じられた人間界と魔界をつなぐ役目として、豪邸の他に特別手当やサポートが与えられているのではないでしょうか。

 現に、ふたりには金銭問題を発端とした深刻な喧嘩や、夫婦間に亀裂を生じさせるいがみあいが発生していません。激しい喧嘩をすることがあっても、夫婦にとってのスパイスのようなもの。人間界において、分かり合えるのはお互いしかいない状況もあって基本的に夫婦仲が良く、そんな家庭で育つ子どもは精神衛生的にも安定していて、性善説で生きています。家庭に問題がないからこそ、恋に全力投球できるのです。

 また、蘭世は魔界人であるため、人間界のしがらみから完全に開放されています。シーラは教育ママといっても、「勉強しなさい」と口にする回数は一般的な母親のそれを大幅に下回ります。いつか魔界に戻る身分であるため、定期試験も受験勉強も、将来の就職さえも視野にいれずに生きています。学生の身分でありながら学業を疎かにしても構わない特権階級。人生におけるプライオリティを「人を想うこと」にできる要素のひとつとなっています。

 加えて、連載開始は1982年。当時の女性は専業主婦となり家庭を支えるのが当然だったため、蘭世も当たり前のように結婚がゴールだと考えており、家事手伝いに力を入れています。1985年に男女雇用機会均等法が成立し、女性の社会進出の大きなきっかけとなりましたが、そういった社会的背景は蘭世編のキャラクター設定には反映されていません。そもそも真壁俊がプロボクサーを目指していたので、彼に恋した瞬間から、支えることが蘭世の夢だったのです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる