ネット広告に出没する「サバサバ女」は何者なのか? 原作者に直撃インタビュー

ネット広告に出没する「サバサバ女」の正体

 このところネット上の広告でよく目にする、なんかイラッとさせられる自称サバサバ系なぽっちゃりめの女性。見覚えがある人や、気になって無料配信分を読んでしまったという人も多いのではないだろうか(おれも中身が気になって、つい課金して全話読んでしまった……)。彼女の名前は網浜奈美。原作をとらふぐさん、作画を江口心さんが担当するコミック『ワタシってサバサバしてるから』の、事実上の主人公である。

 そんな『ワタシってサバサバしてるから』がNHKで2023年1月に主演・丸山礼、演出・伊藤征章によりドラマ化が決定した。本作は主人公の網浜さんと、同じ出版社で働く人々を描いた作品。自分は「女性らしい」とされる物事に興味がなく、男っぽくてサバサバしている……そんな自己認識の割に案外ネチネチしていて嫉妬深く非常識な網浜さんと、彼女に迷惑をかけられるもなかなか決定的にはやりこめられない同僚たち。彼らの姿は笑えると同時に、「早く誰かコイツをなんとかしろ!」という感情を掻き立てられる。

 とにかくネット上で目立つことから、おそらく日本で最も有名な自称サバサバ女になったであろう網浜さん。ではこのコミックはいかにして作られたのか。そこは原作者に聞いてみようということで、ここでは原作を担当しているとらふぐさんに単独インタビューを試みた。網浜さんはいかにして誕生し、果たしてこれからどこへ向かうのだろうか?(しげる)

モヤモヤしていることを形にしたい

ーー『ワタシってサバサバしてるから』のお話に入る前に、まずとらふぐさんのご経歴を簡単に教えてください。

とらふぐ:会社員も長くやっていたんですが、それと並行して漫画関係の仕事もしていました。自分でも描きますし、女性向けのコミックを中心に原作を書いたりとか。現在、漫画を中心に出版プロデュースや、ゲーム・エンタメ系の仕事もしています。

ーー基本的には、『ワタシってサバサバしてるから』みたいな女性向けの題材を専門にしていらっしゃるんですね。

とらふぐ:そうですね。それこそ網浜さんみたいなキャラクターによるトラブルとか、女性を取り巻く問題をいかにエンタメとして表現できるかにトライしています。そういったネタ選定の基準としては、まずみんながモヤモヤしていること、言葉にならなくて表には出ていないこと、言いたいけど言えないことを形にしたい……という考えでやっていますね。

ーー「自称サバサバ女」みたいなネタも、その延長上ということですね。では、『ワタシってサバサバしてるから』が誕生したのはどう言った経緯だったんでしょうか?

とらふぐ:この作品に関しては、版元のDPNブックスさんから「最近"自称サバサバ女"と呼ばれる女性が出没している」という話をいただいたのがきっかけです。昔からこういう人はいたと思うけど、この自称サバサバ女をクローズアップした作品が作れないか、というオファーをいただきまして。そこから担当さんと一緒に網浜さんのキャラクターをすり合わせて考えていきました。

ーーとらふぐさんは、「自称サバサバ女」の存在自体はご存知だったんですか?

とらふぐ:最初はどういう人なのか掴みづらかったんですが、周囲の知人の話を聞いたりネットで調べたりするうちに、「あ~、確かにこういう人って、いるな……」と思いました(笑)。もちろん漫画なんで網浜さんに関しては誇張して描いていますし、あそこまですごい人にはぶつかったことはないですけど、ああいう感じの自己主張が強すぎて勢いで周囲を説き伏せてしまうような人って学校でも職場でもいるんですよね。それを周りが我慢していることのモヤモヤ感もわかりますし、そこからばばーっとああいうキャラクターができあがった感じです。

ーー特定のモデルがいるとか、そういうことはないんですね。

とらふぐ:モデルはいないです。だから最初はつかみどころがなかったんですが、最近はもうキャラクターとしてできあがっているので、「この人だったらこういう時はこう言うよね」というのを出している感じになっています。ただ、程度の軽重はあってもああいう人っているところにはいるので、自分でも「こういうところには気をつけよう」と思いながら書いています。

キャラクターが勝手に動き出す感じ

ーー網浜さんの見た目はけっこう特徴的ですが、あれはどなたが考えたんでしょうか?

とらふぐ:見た目に関しては、作画の江口先生とDPNブックスの担当さんとでイメージをすり合わせて決めました。当時の担当さんにはけっこうはっきりしたイメージがあったようなので、それを聞きつつ我々の方でも「痩せてはいなくて、ちょっとドンとした体型だよね」とかアイデアを出していきました。私のイメージだと「ああいう人はショートカットだな」と思っていたので、それで髪も短くしてもらっています。あと、江口先生が人の心理を表情に表すのがお上手なので、うまくああいうキャラを引き出してくれたと思います。

ーー網浜さん、服装やアクセサリーのディテールもけっこうしっかり決まってますよね。

とらふぐ:ディテールで言うと、「網浜さんは都内のどこに住んでいるのか」が問題になったんですよ(笑)。私は代官山とか、ちょっとオシャレなところかなと思っていたんですけど、当時の担当さんに「中野に住んでそう!」とご意見いただき、「たしかに!」と思い、それで中野になりました。

ーーあ~、確かに中央線沿線って、安いけど女性単独だとちょっと入りにくそうな飲み屋とかたくさんありますもんね!

とらふぐ:そうなんですよね。私も中野は大好きなんですけど、確かに網浜さんは中野あたりで一人で飲んでるのをわざわざ他人に言いそうだなと思って、それで住んでいる場所が固まりました。

ーー先ほど作画の江口さんはキャラクターの表情で審理を描写するのがお上手という話も出ましたが、網浜さんは回を追うごとに顔芸もエスカレートしているし、なんだか妖怪みたいな扱いになっていますよね。

とらふぐ:『ワタシってサバサバしてるから』に限らずいろんな作品に言えることだと思うんですが、作家も描いているうちにキャラクターがどんどん固まって、勝手に動き出す感じになるんです。顔芸もその延長というか、話数を重ねるうちに網浜さんらしいところが知らず知らずのうちに出てきちゃうんですよね。

ーー最初はあそこまでエクストリームな顔芸ではなかったですもんね。確かにそこはキャラのかたまり具合に比例するものなんですね。

とらふぐ:幸い読者の方もたくさん読んでくれているので、「網浜さんはこの方向性で受け入れられている……これで大丈夫だったんだ……」とホッとしています。楽しんでいただければということで、現状は自由に描かせていただいています。

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