『ときめきトゥナイト それから』江藤蘭世はなぜ人を虜にし続けるのか? その魅力を考察
なぜ蘭世が憧れられるのか
少女は全身全霊をかけて愛することのできる相手に出会いたいと夢見るものです。自分の命すら投げ打ったって構わないと思うほどの大恋愛をしたいと。
かく言う筆者も、人を愛することがどういうことかも知らない子どもだった頃に、燃えるような大恋愛を夢見ていました。しかし、そんな相手はなかなか現れません。そのため、真壁俊のような完璧な王子様に出会って非現実な恋をしている蘭世がたまらなく羨ましかった。命を掛けてもいいと心から思えるほど愛する人に出会えた彼女に憧れたのです。
蘭世は真壁俊に恋しただけでなく、猛烈なモテ女でもあります。蘭世のモテ遍歴はトップアイドル安西二葉も裸足で逃げ出すレベル。クラスの優等生 鷹羽邦彦、魔界の王子アロン、スター候補の筒井圭吾にも想いを寄せられます。中でも真壁俊と瓜二つで魔界の王子の末裔、さらに大人の余裕と魅力に溢れているダーク=カルロの存在は強烈な印象を残しました。セントポーリア学園では日野克にもちょっかいを出され、恋愛感情でないにしろ魔界人のサンドや死神のジョルジュも蘭世に好意的な態度を見せています。
彼女が人を虜にできるのは、脆そうに見えて芯が一本通っており、かつ包容力があって素直だから。喜怒哀楽に正直で、感情を言葉にすることに臆することがありません。彼女の率直な言葉に、人は面食らうと同時に魅了されます。こんなシーンがシリーズでは何度も登場するため、読者は愛と素直さがあれば人は変えられると刷り込まれています。
そのため、『ときめきトゥナイト』読者は、人間関係や環境に悩む時に、他人を変えるよりも自分を変えてみようと考える傾向にあるように感じます。相手を理解し、共感することで状況を打開してみようと思いがち。しかし、やってみればわかるとおり、言葉で言うほど簡単ではありません。蘭世はこういったことが当たり前のようにできてしまうので、できない自分と比較して、蘭世を憧れ、崇めるようになるのではないか、と筆者は考えました。
さて、そんな蘭世がアラフォーになった時に待ち受けるのはどんな困難でしょうか。ゾーンを諭した時のような名言も期待したいところです。
■書籍情報
「Cookie(クッキー)」9月号
定価:700円(電子版)
出版社:集英社