『SPY×FAMILY』フォージャー家とデズモンド家の対比から見えてくる、理想の“家族”のあり方 最新7巻レビュー

『SPY×FAMILY』から見える理想の“家族”

 『SPY×FAMILY』は、国家間の戦争を全面に打ち出しており、背景にある世界観はシリアスで過酷なものだが、悪役の描かれ方はコミカルで、どんなに嫌な敵でもどこか愛嬌がある。だが、デズモンドは例外で、立っているだけで不気味な迫力を見せている。おそらく彼はラスボス的な存在だと思うのだが、そう考えた時に気になるのが、息子のダミアンである。

 ダミアンはこの7巻で表紙を務めているのだが、「MISSION:39」は彼が主人公のエピソードとなっている。点呼の時間に遅れた罰で寮母の手伝いをしていたダミアンと2人の子分が野外学習に連れ出され、川下りや釣りを楽しむ様子は「これこそ、子ども時代の幸福な時間」といった雰囲気で『ちびまる子ちゃん』(集英社)や『よつばと!』(KADOKAWA)を読んでいるような気持ちになる。

 悪役の息子ですら内面を掘り下げて魅力的に描くのは『SPY×FAMILY』ならではの展開だろう。特にこの7巻は、全員が主役のように描かれている。

 本作の主人公は〈黄昏〉、ヨル、アーニャの3人だが、それぞれの見ているものが違うため、違う世界の話を三作同時に読んでいるかのようだ。それでも当初は〈黄昏〉が物語の中心だと思っていたため、アーニャを中心とした子どもたちの話は箸休め的なものと思っていたが、アーニャを取り巻くイーデン校の物語はどんどん大きくなっている。

 ちなみに「MISSION:40」の主人公はロイド家で飼われている予知能力を持った犬・ボンド。「真っ暗」なイメージを予知し、数時間後に自分は死ぬと思ったボンドは、死を回避しようと考える。死因が「ヨルの作ったごはん」だと理解したボンドは、食事を避けるために〈黄昏〉の元へと向かい、彼の仕事を手伝うことになるのだが、犬を主役にして、こんな話が作れるのかと驚かされた。

 7巻は、主人公が違うエピソードが連なった短編集のような作りだが、誰が主役でも面白いのは、キャラクター造形が完璧だからだろう。登場人物が変わるごとに話のジャンルが切り替わるのだが、どの話もスタイリッシュなコメディに落とし込まれているため「『SPY×FAMILY』らしい」としか言いようのない後味の良さが残る。

 なお、この7巻でコミックスのシリーズ累計発行部数(電子書籍含む)は1000万部を突破。アニメ化などのメディア展開が始まっていない漫画が、ここまでの人気を獲得することは極めて異例である。

 前述したように、キャラクターごとに様々な話を展開する「振り幅の広さ」と「後味の良さ」が人気の理由だと思うのだが、それが成立するのは、本作が本質的な意味で「家族の物語」だからだろう。年齢も性別も違う「バラバラの物語」を生きる人々が一緒に過ごせる場所が“家族”なのだと『SPY×FAMILY』は教えてくれる。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『SPY×FAMILY』1〜7巻
著者:遠藤達哉
出版社:株式会社 集英社
価格:本体480円+税
https://www.shonenjump.com/j/rensai/list/spyfamily.html



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