カレー沢薫が語る“モテ”の弊害 「“不都合なモテ”を許容できないなら、モテない方がマシ」
――本に登場した男性たちも、みんな人が好きという方ばかりでした。
カレー沢:本当にそこに尽きると思います。顔が良くてハイスペックであれば人から興味を持たれると思うんですけど、そういったタイプでない人がモテたいのであれば、まず他人に興味を持つところからですよね。人は自分に興味を持ってくれない人のことを好きにならない。逆に好きと言われたら、眼中になかった人でも急に気になる、みたいになることもありますし。「あ、この人自分に興味持ってくれてるんだな」って思わせるのがうまい人はモテると思います。前澤さんなどもそうなんですけど、注目を集めるのがとにかくうまいですよね。アンチも含めて「こいつのことを調べてやろう」と思わせるというか。
ーーどうでもいいと思っていたら、調べたりしないですもんね。ちなみに、旦那さんはどんな女性が好みでカレー沢さんと一緒になったのでしょうか。
カレー沢:それが本当に謎なんです。そういうことを普段全然言わないんですよね。ひとつだけ覚えてるのが、付き合いたての頃にどういう女性が好きかを聞いたら「強いて言えば山田まりやが好き」と。でも、「その質問、困るな」という感じでした。何を意図して聞いているかわからないから恐さを感じているというか。山田まりやが好きと言われても、私は山田まりやにはなれないですし、山田さんみたいな人が好きなんだって勝手にイラッとされても困ると思いますし……この手の質問はカップルや夫婦には不要だなと悟りました。向こうからしても私に「土方歳三がめっちゃ好きなんだよね」って言われても困りますよね(笑)。
――確かに無駄な諍いを招いてしまう質問ですね。今お名前が出た土方歳三は、実在した新撰組の土方というより、「Fate/Grand Order」のキャラクターだと思いますが、“モテ”の王道をいくキャラクターだと思いますが、本書には収録されていないですね。
カレー沢:いずれ土方さんだけで一冊出したいです。需要があるかどうかわからないですが(笑)。
ーー土方さんには、モテエピソードがたくさんありそうです。
カレー沢:自分はカッコいいと思ってなくても、ある人を周りがカッコいいって騒いでたらカッコよく見えてくることってあると思うんですけど、創作に出てくる土方さんはカッコわるいことがほぼないんです。大体カッコよく描かれていて、それを見た人が新たにカッコいい土方さんを描いて、カッコいいが連鎖していく。土方さんは「モテそう」というイメージがかなり先行している人なんですけど、そういうイメージはモテには大事なのかなと思います。人はCMの宣伝文句より、口コミを信用しますよね。モテもそれと同じで、自分で「モテます」と主張するより、他人に言ってもらうことで意味が生まれてくるのかなと。
――先ほどハイスペ男子が余裕がなくなるところがお好きだと仰ってましたが、土方さんはずっとカッコいいのにそれでもお好きなんですね。
カレー沢:だから自分にとって特別なのかなと思います。他のキャラクターは隙がある方が好きになるんですけど、土方さんに対しては余裕をなくしてほしいとか全然思わないんですよね。ただ純粋にカッコいいところをずっと見てたいというか。好きすぎて直視できない領域まできています(笑)。
――(笑)。カレー沢さんはマンガ家としてデビューした後に、文章のお仕事も多く手掛けていますが、どんなきっかけで執筆をされるようになったのですか?
カレー沢:雑誌にマンガが載るときに柱のコメントを書いたり、並行してブログもやっていました。マンガの担当さんがそれらを読んでくれて「文章も面白いからコラムの仕事もどうですか?」と提案してもらったのがきっかけです。デビューした講談社から同じ媒体でコラムの連載のお仕事をいただいて、後にそれがまとまって『負ける技術』として本になりました。
ーー文章を書くようになって変わったことはありますか?
カレー沢:文章の仕事をするようになってから、自分が全く知らない分野やコンテンツについて書いてほしいと言われることが増えました。最初は全く調べずに正直に知らないこととして書いたりもしてたんですけど、最近は書く前にある程度調べるようにしています。調べてみて興味が湧くこともありますし、知らないことを知るいいきっかけになっているなと思います。私は元々興味の幅が狭くて、社会のことをまるで知らないというタイプだったんですけど、コラムの仕事をするようになって今世の中で何が起きているのかをきちんと追いかけるようになりました。『ひとりでしにたい』は社会問題について調べていく中で生まれた作品です。
ーーでは文章のお仕事が、新しい漫画作品にもつながっているんですね。
カレー沢:はい。ツイッターだけで話題になるニュースもあったりして、それがコラムのネタになったりもするので、「ツイッターも仕事のうち」というのは決して嘘じゃないです!
――ありがとうございます。最後にこっそり、カレー沢さんが最近いちばん課金したものを教えてください。
カレー沢:『ウマ娘』ですね。「このキャラクターが欲しい」とかならそんなに課金しなくても手に入るんですけど、レースをするゲームなので、上を目指したかったらちょっとやそっとの課金じゃ足りないですね。てっぺんを取りたいなら四桁万円必要な世界だと思います……。「勝ちたいんや!」になるとお金がいくらあっても足りない。それができるのって日本だと(前澤)友作くらいだと思うので、友作がてっぺんを目指したらいいと思います(笑)。
■書誌情報
『モテるかもしれない。』
著者:カレー沢薫
出版社:新潮社
価格:1,430円(税込)
https://www.shinchosha.co.jp/book/353971/