ギャグヤンキー漫画の金字塔『今日から俺は!!』 色褪せない魅力を検証

失われぬ『今日から俺は!!』の魅力

『今日から俺は!!』5巻(小学館)

 この伊藤三橋コンビは、性格が真反対である。三橋は卑怯者でずる賢く、意地悪。他者の不愉快そうな顔を見るのが大好きで、本人も「ヒキョーは俺の専売特許」と豪語しているほどだ。しかし運動神経がズバ抜けてよく、眼で追えないほどの拳速で攻撃したり空中で旋回したりと、喧嘩の腕も天才的である。その強さは卑怯な手無しでも十分最強になり得るレベルで、作中では一対一で三橋が負けた描写は存在しない。また「金髪の悪魔」として恐れられる三橋だが、彼にはどこか可愛らしい雰囲気もあるのが大きな特徴だ。食べ物を貰ったりイタズラをしている最中は、少年っぽさを見せどこか憎めない雰囲気を醸し出す。それも相まってか三橋の通う軟葉高校では、一定の人気があるカリスマ性も見せていた。

 一方伊藤は三橋とは真逆の、正義感溢れる義理堅い性格をしている。曲がったことが大嫌いな「漢」で、多対一の戦いでは1人で戦う側に加勢する姿が何度も描かれた。喧嘩も三橋と同程度に強い。伊藤の武器は、根性とタフネスである。特に怒りによって強くなるタイプで、仲間を傷つけられ激昂すると、何度殴られても立ち上がる根性を見せた。学校ではその頼れる性格から尊敬する者も多く、三橋とは異なりしっかりと人気者だ。そんな一見相容れないように見える2人だが、作中では青春を駆け抜ける凸凹コンビの相性の良さがわかる場面が多く登場した。

『今日から俺は!!』3巻(小学館)

 大人な伊藤が子供な三橋に振り回されているかと思えば、伊藤がうまく三橋を操縦する。三橋だけがワルかと思えば、伊藤も共に悪さに興じる。そして三橋は唯我独尊主義なのかと思えば、心の底では伊藤を親友として認め、彼のために戦う姿も見せた。また伊藤もそれを理解しており、2人は土壇場では驚異的なシンクロを見せるのだ。お互いの強さを認めており、同時に親友として信頼している。この相性抜群の最強コンビは見てて微笑ましく、読者の胸を熱くした。

 本作には不良漫画にしては珍しいほど、ギャグ描写が多い。中には喧嘩や抗争と関係無いギャグだけの話もあり、その特色は実写版でも如実に現れていた。原作でも三橋が復讐のため今井を廃ビルに閉じ込める話などのギャグエピソードは軽く楽しく読め、明言は避けるが2人の友情を感じるシーンやシリアスな展開はガッツリ泣ける。そして時には笑える喧嘩エピソードもあり、このギャグとシリアスの絶妙なバランスも本作の魅力だ。

 また昔ながらの不良漫画では外せない恋愛要素も盛り込んでおり、それが作品に華を添えている。

 気付いたらツッパっていたのではなく、「今日からツッパリ」と決めて不良となった2人の少年の青春を描く『今日から俺は!!』。本作は不良漫画に珍しく暴走族などはほとんど登場せず、勢力争いや「頂点(テッペン)を狙う」といった展開も無い。基本的に三橋や伊藤が喧嘩をする際は、吹っ掛けられたり仲間を助けるために拳を振るう描写がほとんどである。そのため三橋などは、ダークヒーロー的な側面もありながらどこかカッコ良く憧れてしまう。また同時に現実離れした描写も無いため、彼らの青春には懐かしさを感じられる人も多いだろう。喧嘩最強でどこか可愛気のある凸凹コンビが大暴れする『今日から俺は!!』、劇場版や実写ドラマで興味が湧いた人は、一度手に取ってみて欲しい。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。

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