『ザ・ファブル』の原点! “環状族”を描く『ナニワトモアレ』が圧倒的に面白い理由

『ナニワトモアレ』が圧倒的に面白い理由

 正直な話、おれは車に全然興味がない。車が欲しいとも思わないし、自分から積極的に運転したいと思ったことも一度もない。そこまで車に興味がない人間からしても圧倒的にナニトモが面白いのは、このチーム間の抗争劇とチーム内の人間関係を軸に、「バブル期の環状族」という後にも先にも存在しない強烈な集団を描いた作品だからだ。つまるところ、この漫画は「知らない風習と考え方を持つ人々をリアルに描いた漫画」として、猛烈に面白いのである。

 その面白さを支えているのが、南勝久のリアルさへのこだわりだ。環状での走行シーンがリアルであるということ以外にも、登場人物の話し方ひとつとっても、キャラクター性と関西弁のバランスを考えたものが選びとられている。

 また、環状族にはチーム同士の付き合いもある。敵対するチームもあれば仲のいいチームもあるし、同じチームで毎週のように顔をあわせるメンバーもいる。しかし、基本的には仕事や日常生活で顔をあわせる間柄ではないから、自然と「あだ名は知ってるけど本名はわからない」「どの車に乗っているかはなんとなくわかる」という程度の付き合いの人間が増えることになる。そういった点を表現するため、ナニトモでははっきりと本名が全部わかる人間が全く登場しない。主人公グッさんですら本名がわからないし、家族構成や住まいについても何もわからない。「名前や生活の詳細がわからない」ということで表現されるリアルさも、世の中には存在するのだ。

 暴力に関する生々しさも強い。例えばケンカのシーンでも、何発もボロボロになるまで殴り合うようなことはほとんどない。ケンカ慣れした人間のクリティカルな打撃が入ればもう立っていられないし、打たれ強い人間に対しては素人がどれだけ殴っても意味がないという生々しさに、全編が貫かれている。チーム同士で戦うときは、まず相手集団のリーダー格を全員で潰し、動けなくしてしまえばあとは勝手に逃げていく……というような、実戦でしか知り得ないようなテクニックも盛り込まれている。

 こういった情報の盛り込み方と読ませ方で、ナニトモは当時の環状族たちが何を考え、どういう風景と空気の中で走っていたのかを表現しきっている。その内容はまるで、大阪を舞台にした『シティ・オブ・ゴッド』のようだ。そして、環状族たちの生態や考え方は、当時を知らず車に興味のないおれのような人間が読んでも、猛烈に面白い。環状族という異文化と不穏な暴力とオフビートな笑いをシャッフルして提示されるので、何回読んでも発見があるのだ。

 映画化もされた『ザ・ファブル』によって、南勝久という漫画家を知った人も多いと思う。それならば是非、南作品の原点であるナニトモにも触れていただきたい。長い漫画だが、読み出せば一瞬で全巻読んでしまうはずである。それにしても、『ザ・ファブル』はいつ連載再開してくれるんでしょうか。楽しみに待っているのだけど……!

■しげる
ライター。岐阜県出身。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

■書誌情報
『ナニワトモアレ』全28巻(ヤングマガジンコミックス)
著者:南勝久
出版社:講談社

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