伊藤沙莉が語る、自分を肯定することの大切さ 「肯定すると、いろんなことが広がります」
――今回、かなり自分をさらけ出す内容になっていますが、「書くからには!」といった思いがあったのでしょうか?
伊藤:こういうインタビューでもそうですけど、せっかく話を聞きに来てくださったんだから、なるべく他の媒体とは違うことを言いたいって思うんです。きっと本も一緒で、せっかく本を手に取って、私を知りたいとか、私に興味を持ってくださったのであれば、ここでしか見られない伊藤沙莉がないと、意味がないなと思って。「本当にありがとうございます」っていう気持ちも込めて、「代わりと言ってはなんですが、こんな一面もあります」みたいな。この本を通して、何かひとつでも与えることができればいいなと思いますね。
――役者さんの中には、プライベートは見せたくないという方も多いかと思います。
伊藤:いや~、私も基本的には嫌です。人間・伊藤沙莉に対しての感想は、ほぼ必要ないものだと思っています。それもあって、ちょっと作品っぽく書いたところもあるのかなと。
――なるほど、すごく腑に落ちました。
伊藤:ありがたいのが、漫画とかもそうですけど、それぞれ自分が一番面白いと思う“間”で読むじゃないですか。きっとこの本も同じで、みんなが思い描く“伊藤沙莉”がまた一つできるわけです。「それを100%信じるかどうかは、あなた次第です」っていう都市伝説みたいな話になるんですけど(笑)、それでいいと思うんです。こういう一面もあるなら、こんな一面もあるのかなって、想像が膨らむきっかけになってもいいし。声がない分、みんなが想像した“伊藤沙莉の間”で読むから、それは一つ作品としておもしろいところかなって。だからこれは、文章っていう少しミステリアスなフィールドというか、世界観の中でしかできないこと。「言葉で語って」と言われたら、キツいなと思うところまで書いてるので、それを語る日はこれ以上は多分ないんです。なので、本当にここだけ。もう、これをきっかけにSNSを続けるか迷っているくらいなんですよ。すべてを出し切ったので、これ以上、私を知る必要はないんじゃないかなって。
――丸裸ですね。
伊藤:もう、すっぽんぽんです(笑)。
――今お話をうかがっても、本を読ませていただいても、伊藤さんの根底には「自分に正直に生きていたい」という思いがあるのかなと感じたのですが、いかがでしょうか?
伊藤:そうしていきたいっていう大きな軸があるわけではないんですけど、性分的に嘘はつけないんですよ。バレるんです、ついても……秒で(笑)。だったら、嘘をついて弁解する時間が無駄すぎるなと思っています。「喋りすぎ」とか、怒られたりもするんですけどね(笑)。
――(笑)。エッセイを書くにあたり、あらためてご自身の半生を振り返ってみていかがですか?
伊藤:面白いなって思いました。文章にすることで、今まで経験してきたすべてのことに、ちゃんと意味が生まれたようにも思います。その時はキツくても、時間が経って文章として読み返したときに“見応えのある人生”っていうのは、なんてありがたいんだろうと思いました。
――当時はマイナスに思えた出来事も、時が経てばプラスに捉えられることもある。という考え方については、エッセイでも触れられていますね。
伊藤:いろんなことの考察とか、葛藤の結末が、全部本に入っている感じです。だから、私の物事の捉え方とか、感じ方みたいなものは、なんとなく想像していただけるのかなと思います。
――エッセイを拝読して、伊藤さんの「自分が納得しないと前に進めない」という考え方が印象的でした。とはいえお仕事では、自分は納得していない芝居を相手から評価される、といったアンバランスも生じるのかなと思います。
伊藤:自分が思っていることと、他人が思ってることが違うっていうのは、面白いなと思いますね。それこそ、試写を観て「なんだこの芝居! もう逃げ出したい!」と思った後に「すごい良かったです」とか言われると、「え~、じゃあもう訳わから~ん」ってなるけど、そこでもがくのが楽しくて、この仕事を続けている部分もあるんです。納得したら、終わっちゃうから。やっぱりいろんな意見があるんだなって思うし、自分だけの意見が正しいと思い込むと、どんどんどんどんつまらない人間になっていく。どんどんどんどん周りの意見を吸収していくことで、もっと広い世界が見れるんじゃないかなとは思いますね。
――役者としては、納得しない方がいいと思う部分もある、と。
伊藤:それでも一応、納得するところまで持っていこうとするんですけどね。何で評価されたのかを知らないと、何もわからないままだから。もちろん知らなくていいこともあるんですけど、人に聞くっていうことをよくしますね。「なんでそう思ったんですか?」って。子どもみたいに「なんで、なんで? どうして?」みたいなことは、よくあります。
――今回、「声がコンプレックスだった」というお話もある中で、Amazonの予約特典が“朗読ボイス”というのも、お洒落だなと思いました。
伊藤:これまで本を出した経験がないので、特典についても全部提案していただいたんですけど、最初に聞いたときには「それ面白い!」って思いました。エッセイでも声について書いているし、やっぱり声で覚えていただけることも多いですし。私の印象として一番強いものを特典にするっていうのは、「たしかに」と思いましたね。
――そのような“声”に対する思いもそうですが、今作には「自分を肯定すること」についても書かれています。
伊藤:肯定すると、いろんなことが広がりますよね。やっぱり否定的だと、本当に何もできなくなっちゃうので。「これでいいじゃん」とか、「それはそれであなただよ」って自分の中で思ってあげると、次に進めるっていうか……納得と似てるかも知れない。前に進むために、無理やり肯定したこともあったし、肯定できるように導いてくださる方との出会いも多かったですし。だから、切り拓いていくとか、何か新しいことにチャレンジするときは、自分を一瞬でも肯定できたほうが、やりやすいかなって思います。