『ウマ娘 シンデレラグレイ』で読む、名馬“オグリキャップ”伝説 ウマ娘は競馬界への追い風になるか
Cygamesのゲームアプリ『ウマ娘 プリティーダービー』のリリースがもう半年早かったら、そして新型コロナウイルス感染症の流行がなかったら、2020年12月27日の中山競馬場は10万人規模の観客で大いに賑わっただろう。日本競馬界最大のイベント「有馬記念」の開催に、1990年のオグリキャップ優勝から30周年という節目が重なり、そこに『ウマ娘』にハマって競馬やオグリキャップに関心を持ったファンが、大勢詰めかけただろうから。
人間の少女のようなスタイルをしながらも、競走馬のような体力を持ったウマ娘を育成し、競争での勝利を目指すのが『ウマ娘 プリティーダービー』というゲーム。ビジュアルの可愛らしさや競争シーンのスリリングさ、ライブシーンの楽しさで人気となっている。モデルとなった競走馬の特徴がウマ娘たちに重ねられていることもあって、プレイヤーが実際の競馬に関心を向け、競馬場に行ったり、引退した競走馬を支援するために寄付したりする現象も起こり始めた。
そうした“にわかファン”の流入を、うっとうしく感じる本来の競馬ファンが大勢いるだろうと想像できるから、『ウマ娘』の人気が競馬を盛り上げると煽るのは避けたいところ。もっとも、オグリキャップが優勝した1990年12月23日の「有馬記念」で最高潮に達した当時の競馬ブームには、地方競馬出身ながら圧倒的な強さで中央競馬に移籍し、重賞を次々に獲得したオグリキャップのストーリーに惹かれた新しいファンが結構な数関わっていた。
『ウマ娘 プリティーダービー』の世界を使った、漫画・久住太陽、脚本・杉浦理史、漫画企画構成・伊藤隼之介(原作:Cygames)によるコミックス『ウマ娘 シンデレラグレイ』(集英社)にはそんな、オグリキャップという競走馬がぐんぐんと評判になっていた過程や理由が、ウマ娘のキャラクターを借りて描かれている。当時を知る人には懐かしく、ゲームやアニメの『ウマ娘 プリティーダービー』からオグリキャップの存在を知った人には興味深いエピソードが満載だ。
競馬といえば「有馬記念」や「東京優駿(日本ダービー)」「天皇賞」といった競争が浮かぶが、これらを運営しているのは日本中央競馬会(JRA)という組織。競馬には別に地方公共団体が運営に当たっている地方競馬がある。『ウマ娘 プリティーダービー』にも登場するハルウララのモデルになった競走馬で盛り上がった高知競馬場も、そんな地方競馬の開催地だ。
『ウマ娘 プリティーダービー』でもURA(ウマ娘レーシングアソシエーション)の管轄下、中央競馬に相当するトゥインクル・シリーズが開かれては、トレセン学園に所属するウマ娘たちが出場している。一方で、地方トレセン学園が各地にあって、所属するウマ娘たちがローカルシリーズを戦っている。
オグリキャップもカサマツトレセン学園に所属するウマ娘だったが、圧倒的な強さを見せて存在を知られ、中央のトレセン学園にスカウトされる。実在のオグリキャップと同じような境遇からの出世ぶり。なおかつ、そうしたストーリーにちりばめられたウマ娘たちのエピソードが、モデルとなった競走馬たちのものを踏襲していて興味を抱かせる。