『呪術廻戦』パロディも話題! 『僕とロボコ』の“お笑い第7世代”的なギャグを考察

『僕とロボコ』の大根おろし的な魅力

 ギャグ漫画としての『僕とロボコ』の魅力は、大きく分けて2つ。

 ひとつは『ドラエもん』的世界をなぞりながらも、昭和・平成のギャグ漫画とは違う令和の時代ならではの味付けが施されていること。それが一番現れているのがボンドの友達の、ガチゴリラとモツオだ。『ドラえもん』で言うと、ボンドが落ちこぼれののび太で、ガチゴリラが粗暴なガキ大将のジャイアン、モツオが、家がお金持ちで嫌味なスネ夫。

 OMが家にいないボンドを、「ま! ボンドんチ貧乏だからな!!」と2人に笑われたボンドが「それの何がオカシイんだよ!!」と怒る導入部は、いかにも『ドラえもん』に出てきそうな、ジャイアンとスネ夫のイジワルなのだが、大きく違うのはその後で、怒ったボンドに対して「確かに笑い事じゃないか…」と、2人はしおらしくなり、「失言だった…」といって謝る。

 その時に「せめて笑ってくれ――!!!」「なんで微妙に優しいんだよ!!」とボンドがツッコむのだが、この3人のやりとりは終始こんな感じで、イジワルなことを言ってるように見えて、実は優しいガチゴリラとモツオ(にツッこむボンド)というボケ&ツッコミは、この漫画ならではの味わいだろう。

 印象としては、お笑い第7世代と言われている、お笑い芸人の「人を傷つけない優しい笑い」に近い、とても同時代的な表現だが、これが(今の時代ならではの)ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)への配慮に見えて、実はそっちの方が、ボンドにとってはキツいんじゃねぇ?というちょっとだけ気まずい気分を演出しているのが、面白いところである。

 すでに、ガチゴリラとモツオに焦点を当てたエピソードも書かれており、特に2巻のモツオ(ちなみにフルネームは金尾モツオ)の日常をメイコの視点から描いた第12話「モツオとメイコ」は、友達の前では悪友ぶってるモツオのナイーブな一面が涙をさそう。一見ナンセンスなコメディに見えて、ちょっとイイ話というのが、本作のトーンなのだが、そんな感動的な裏話見せられて、どうすればいいの?とボンドのように居心地が悪くなること自体が、本作の笑いの肝となっている。

 もう一つの魅力は節々に散りばめられたジャンプ漫画のパロディ。

 『呪術廻戦』の領域展開にはじまり、ジャンプ漫画の固有名詞や名シーンが次から次へと登場する。作品自体をいじるギャグというよりは、読者といっしょにジャンプネタでいっしょに遊んでいるような楽しさで、このあたりは『約束のネバーランド』のスピンオフ・ギャグ漫画『お約束のネバーランド』を描いた作者だけあって毎回、さじ加減が絶妙。これも一昔前のギャグ漫画にくらべると妙に優しいというか、愛情のある見せ方となっている。

 最近では、第2巻が発売された際に発表された、アニメ版『呪術廻戦』のエンディング映像のパロディ動画が最高の仕上がりで、アニメ版のオシャレ感をロボコで演出すること自体がクールな笑いとなっていた。

TVアニメ「呪術廻戦」EDテーマ踊ってみた/EDテーマ:ALI「LOST IN PARADISE feat. AKLO」【JC『僕とロボコ』2巻発売記念】

 基本的にはパロディ漫画なのだが、その進入角度が過去のギャグ漫画とはちょっとだけ違うというのが本作の新しさだろう。本誌をご飯にして、いっしょに読むほど美味しく楽しめる納豆や大根おろしみたいな漫画である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『僕とロボコ』(ジャンプコミックス)2巻
著者:宮崎周平
出版社:集英社
公式サイト:https://www.shonenjump.com/j/rensai/roboko.html

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