『Dr.STONE』と『キテレツ大百科』の違いとは? かつてない科学漫画の行く末を考察
「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の『Dr.STONE』は、「その日―――」「世界中の人間は全て石になった!!」というショッキングなナレーションではじまる。
舞台は数千年後の地球。石化から復活した人類が生き伸びるために科学文明を復活させるというのが物語の流れだ。主人公は科学バカの石神千空と体力だけには自信のある優しい熱血漢・大木大樹。石化していた時に時間の流れを数えていたという千空の計算によると時代は5738年の10月5日。人間の文明は自然の中に埋もれ、動物が地上を跋扈する石の世界(ストーンワールド)となっていた。
偶然、石化が溶けた千空はコウモリの糞から生まれた硝酸と、野生のブドウで作ったワイン(エタノール)の調合の実験を一年間(100回以上)繰り返した末に、石化を解く腐食液を開発する。
「『科学ではわからないこともある』じゃねぇ」
「わからないことにルールを探す そのクッソ地道な努力を」
「科学って呼んでるだけだ……!!」
第一話のこの台詞は、ジャンプのテーマである努力・友情・勝利を科学実験に置き換えたものだと言えるだろう。そしてその後、千空が言う「ファンタジーに科学で勝ってやんぞ」という台詞は、ジャンプも含めた少年漫画に対する大胆な挑発に見える。
多くの少年漫画は、無力な主人公が、魔法や超能力、あるいは死神のノートといったファンタジーの力を与えられ、その力を武器に科学に象徴される理不尽な現実に立ち向かっていくという構造でできている。しかし本作において戦う相手は、ファンタジーそのものである。それが現れているのが、宿敵・獅子王司の存在だ。野生のライオンに襲われた二人は腐食液で司を復活させる。司は霊長類最強の高校生と言われた格闘家で、復活してすぐにライオンを倒してしまう。司は極めて漫画的な存在で、むしろ司の方がジャンプの主人公に見える。
しかし、そんな司はこの世界に適応し、文明が復活すれば元の腐敗した世界に戻ってしまうと判断し、大人の石像を破壊する。物語は、世界に適応し純粋な若者だけを復活させて自然と共に生きていこうとする司と、科学の力で人類全員を救おうとする千空の科学VS武力の戦いになっていく。
『Dr.STONE』は現在13巻まで刊行されている。漫画として圧倒的な完成度を誇るのは1巻から2巻(1~12話)にかけてのプロローグ編なのだが、同時に週刊連載を生き残る上での作り手の葛藤が見え隠れするのが面白い。
おそらく作り手は、科学オタクで頭脳明晰という個性が強烈な千空を、読者が受け入れるか不安だったのではないかと思う。そのため、序盤は保険として大樹という少年漫画によくいる男性キャラの視点で物語を描写し、彼の行動原理としてヒロインの小川杠を守るというわかりやすい目的を配置している。一話では、大樹がクスノキの下で杠に告白するという、ラブコメ漫画でもやらないようなベタなシチュエーションが描かれる。告白しようとした瞬間、人類の石化がはじまるのだが、冒頭だけ見ると、千空は脇役みたいな扱いだ。
その後、物語は千空が中心となり、科学の知識で次々と文明を復活させながら仲間を増やしていくというフォーマットが確立されていくのだが、もしも千空の評判が悪かったら、大樹の存在がもっと大きくなっていたかもしれない。こういった読者の反応に応じて試行錯誤している痕跡が見えるのは週刊連載ならではの面白さだろう。