『鬼滅の刃』煉󠄁獄杏寿郎の魂は燃え尽きない 今なお読者を熱くさせる理由
いずれにせよ、『鬼滅の刃』全巻を通読してみればわかるが、この煉󠄁獄杏寿郎という鬼殺隊きっての剣士こそが、(炭治郎を最初に導いた冨岡義勇とともに)同作の最大のキーパーソンであることに間違いはないだろう。
たしかに、彼が物語の中で実際に活躍するのは、全23巻のうちのわずか2巻(7巻と8巻)にすぎないかもしれない。しかし、単行本の最終巻――鬼舞辻󠄀無惨との壮絶な闘いを終えた炭治郎が、傷だらけの仮死状態になってもなお、右手から放さなかった日輪刀の鍔(つば)を見てほしい。いうまでもなく、それは、かつて煉󠄁獄杏寿郎の愛刀に取りつけられていた炎の形をした鍔であった。
そう――熱き「炎柱」の魂は志半ばで燃え尽きることなく、彼の想いを受け継いだ頼れる後輩と一緒に、(9巻以降も)最後の最後まで「自分ではない誰か」のために闘い続けていた、といっても過言ではないのである。そしてその炎立(ほむらた)つ正義の心は、炭治郎だけでなく、きっと、桃寿郎、炭彦、カナタという未来を生きる少年たちにも受け継がれていくのだろう。
■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter。
■書籍情報
『鬼滅の刃 公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』
吾峠呼世晴 著
定価:本体900円+税
出版社:集英社
公式サイト