『呪術廻戦』乙骨先輩の存在は物語にどう影響する? 虎杖悠仁との違いを考察

『呪術廻戦』乙骨憂太を考察

※ 本稿には、『東京都立呪術高等専門学校』および『呪術廻戦』の登場人物、「乙骨憂太」についてのネタバレが含まれています(筆者)

 いやはや、すごい展開である。『週刊少年ジャンプ 2021年9号』掲載の『呪術廻戦』(芥見下々)第137話を読んで、いささか呆然としてしまった。その内容をここで詳しく書くつもりはないが、同誌が発売された2月1日には、「乙骨先輩」なるワードがSNSでトレンド入りしていたので、何事かと思った単行本派の読者も少なからずいたことだろう。

 なお、「乙骨先輩」とは、『呪術廻戦』のプリクエル(前日譚)である『東京都立呪術高等専門学校』(注)の主人公・乙骨憂太のことだが、虎杖悠仁が主人公となる『呪術廻戦』本編では脇役にまわっている――どころか、第136話までは海外に行っているという設定ゆえ、彼が物語に直接からんでくることはない(ただし、名前とイメージカットはたびたび出てくるので、作品全体を通して異様な存在感を放ってはいる)。

注……2017年に『ジャンプGIGA』で連載された全4話の物語。のちに『呪術廻戦』の「0巻」として単行本化された。

 そこで、本稿では乙骨憂太の魅力――さらにいえば、なぜ、『呪術廻戦』の連載が本誌で始まるにあたり、主役の座を虎杖悠仁に明け渡さなければならなかったのか、を考察したいと思う。

「幼なじみの少女に呪われた少年」の存在

 乙骨憂太は、日本に4人しかいない特級呪術師のひとりである。呪術師とは文字通り呪術を使って呪い(呪霊)を祓う異能者のことだが、乙骨憂太は、物語の序盤では、「幼なじみの少女に呪われた少年」として登場する。

※以下、ネタバレあり

 かつて交通事故で死亡した折本里香という少女(享年11歳)は、幼なじみの憂太への強い想いから特級過呪怨霊と化し、彼に取り憑いた。そして、憂太に危害を加えようとする人間を容赦なく攻撃するようになるのだが(たとえば、彼をいじめた同級生4人を1つのロッカーに詰めたりする)、その結果、憂太は危険人物と見なされ、「完全秘匿での死刑」を執行されそうになる。だが、呪術高専の1年担任・五条悟によってその刑は阻止され、彼は、同校で呪術師としてのスキルを学ぶようになるのだった……。

 ちなみにこの展開は、特級呪物・両面宿儺を“受肉”させた虎杖悠仁が、呪術高専の生徒になるまでの流れとやや似ているが、どちらかといえば「陽」のキャラである虎杖に対し、憂太はあくまでも「陰」のキャラである。

 物語は、このどことなく陰(かげ)のある内気な少年が、呪術高専で頼れる仲間たちと出会い、最悪の呪詛師・夏油傑との戦いを経て、一人前(いちにんまえ)の呪術師として成長するまでが描かれる。

 そんな憂太は、ある時、同級生の禪院真希にこんなことをいう。

僕は……
もう誰も傷つけたくなくて…
閉じこもって消えようとしたんだ…
でも
一人は寂しいって言われて
言い返せなかったんだ
誰かと関わりたい
誰かに必要とされて
生きてていいって
自信が欲しいんだ
(『東京都立呪術高等専門学校』第1話より)

 そしてクライマックス――非呪術師を皆殺しにして「呪術師の楽園」を築こうとする夏油に対し、憂太は自分以外の「誰か」を守るために、「純愛」という名の呪力をもって戦いに挑む。それは、「僕が僕を生きてていいって思えるように」なるための戦いであり、また、里香の魂を(“解呪”するのではなく)本気で受け入れようとする戦いでもあった。

 ここから先の展開を書くことは差し控えるが、乙骨憂太はこの戦いを経て、ひとりの呪術師――いや、漢(おとこ)として成長する。

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