『五等分の花嫁』は現代のラブコメに一石を投じた名作だーー「選ぶことの難しさ」を示した誠実さ

『五等分の花嫁』は現代のラブコメに一石を投じた名作だーー「選ぶことの難しさ」を示した誠実さ

 「週刊少年マガジン」に2017年8月から2020年2月まで連載され、TVアニメ第2期が2021年1月から放送中の春場ねぎ『五等分の花嫁』はシリーズ累計1450万部のラブコメだ。

 この作品の魅力は序盤と中盤以降で変わり、後半の展開は議論を呼ぶという、物語のフェーズごとに変化していくおもしろさがある。全14巻だが、4~5巻ごとに見せる表情を変えていく。

序盤の魅力は「お互い最悪な第一印象の男女が徐々に接近していく」ベタな楽しさ

 『五等分の花嫁』は、頭はいいが貧乏な上杉太郎が、お金はあるが赤点だらけで勉強する気ゼロの五つ子姉妹・一花、二乃、三玖、四葉、五月の家庭教師となって落第を阻止し、妹・らいはのために&過去のある出来事を踏まえて「なりたい自分」になるために勉強と家庭教師アルバイトに奔走する。

 貧乏だが秀才な主人公が女子に勉強を教えるラブコメとしては、同じく2017年連載開始、20年完結の週刊少年ジャンプ連載の筒井大志『ぼくたちは勉強ができない』がある。かつては「勉強ができるキャラ」は少年マンガでは脇役のほうが多かったが、近年では「ガリ勉」などと揶揄されることなく、勉強すること・できることが素直に肯定される社会になったことを感じさせるし、今や多額の奨学金を借りて大学進学している学生が多いことを考えると「頭はいいがお金がない」主人公設定は地方ではわりとリアルなものだろう。

 険悪な状況から徐々にお互いの人となりを知って距離を縮めていくのはラブコメの定番だが、『五等分の花嫁』も単行本5巻くらいまでは「一筋縄ではいかない勉強ぎらいの五つ子に勉強に目を向けてもらうためにあれやこれや手を尽くす風太郎と、そんな風太郎を見て少しずつ惹かれていく五つ子」という展開で読者を惹きつける。

 もっとも早くデレる、戦国大名好きのヘッドホン少女・三玖が一番人気だったが、三玖に限らずそれぞれキャラの立った5人の内面やバックグラウンドの掘り下げと、ラブコメ定番の学校行事・年中行事などを使った接近イベントで読者を楽しませる。

中盤以降の魅力 「5年前の少女」は誰で、なぜ風太郎と距離を置くのか?

 五つ子全員とフラグが立った中盤以降は、徐々にラブコメミステリーへと様相を変えていく。

 時折差し挟まれる、風太郎が五つ子のうち誰かと結婚式を挙げるという未来を描いたシーンから「これは五つ子のうち誰なのか?」と読者は疑問に思う。

 そして「いったい誰とくっつくのか?」という未来の話が、実は、金髪のやんちゃな小学生だった風太郎が、5年前に京都でとある少女と出会ったことによって「人に必要とされる人間になる。そのために勉強する」と決意したという出来事があり、その少女がどうも五つ子のうちのひとりだったらしい、という過去の話と紐付いた――「運命の出会いをした相手と結婚する」物語であることが見えてくる。

 五つ子は、ふだんは性格、外見がはっきりと描き分けられているので見間違えることはないが、5年前は五つ子がまったく同じ髪型や服装をしており、誰だったのかがわからない。

 そして風太郎の前に再び5年前の姿で少女が現れる。つまり彼女は5年前に出会ったのが風太郎であることを認識しており、しかし、彼の元からなぜか去っていく。

 5年前の少女は誰だったのか。

 なぜ風太郎の想いを知りつつ、なかなか姿を現さないのか。

 ほかの4人は、風太郎に過去の因縁を振り切らせ、振り向かせることができるのか。

「主人公がいったい誰を選ぶのか」はラブコメでは定番の謎だ。双子以上が登場するミステリーでは入れ替えトリックもやはり定番である。『五等分の花嫁』はそれらを合わせてひとひねり加えた恋愛ミステリーとして、より考察しがいのあるものになっていた。

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