極道ラブコメ 『来世は他人がいい』、バイオレンスなのに女性読者に支持される理由

『来世は他人がいい』女性人気の理由

 バイオレンス要素が豊富なのにも関わらず、女性人気の高い漫画がある。青年漫画雑誌「月刊アフタヌーン」(講談社)で連載中の『来世は他人がいい』だ。

 2020年6月時点で累計発行部数が90万部を超えたこの漫画は、極道の世界を題材に、ギャグと恋愛を並行して描いている。

 まずはあらすじを簡単に説明したい。

女性読者からも人気のある稀有なヒロイン

『来世は他人がいい(4)』

 主人公は大阪の指定暴力団総長染井蓮二(そめい・れんじ)の孫娘として生まれた染井吉乃(そめい・よしの)である。ぱっと見派手な美人であること、ヤクザの家族であることから学校などでは敬遠されつつも、平穏な日々を過ごしていた。あるとき、祖父が東京の指定暴力団総長深山萼(みやま・がく)と和睦を結んだことによって運命が一転する。萼の孫、深山霧島(みやま・きりしま)と婚約することになり東京で暮らし始めるのだ。だが霧島は、得体のしれない一面を持っている危険な男だった。

 吉乃と霧島のやりとりは誰が読んでも新鮮だと感じるだろう。最初、霧島は吉乃のことを甘やかされて育ったお嬢様だと思い込み、彼女のわがままに振り回されることを期待していた。ところが意外と人に気を遣う穏やかな性格だと知り失望する。

 しかし霧島にひどい言葉をぶつけられた吉乃は思わぬ行動に出る。彼女は平凡な人間ではなく、むしろ霧島が今まで会ったことがないほど覚悟の決まった女だったのだ。それを知った霧島は一転して吉乃に夢中になるのだが、現段階での吉乃はどうかと言えば、霧島を恐れながらもまったく恋心を抱いていない。霧島が吉乃にばれないように他の女性たちと遊んでいると知っても気にしないし、吉乃が今後霧島に惹かれることなんてあるのかすらわからない。

 一方で霧島もいまだに何を考えているのかわからない部分が多い、底知れない「怖さ」を秘めた存在だ。二人の間で不思議な恋愛が始まるのだが、そこに極道の世界が色濃く絡む。2巻からは吉乃の血の繋がらない家族、鳥葦翔真(とりあし・しょうま)も登場し、吉乃を挟んで霧島と翔真がにらみ合う三角関係も幕を開ける。

 「月刊アフタヌーン」は青年向けだが、本作は女性読者も多いという。極道を題材にしたエンターテイメント作品では珍しいのではないだろうか。

 なぜ女性たちがこんなに夢中になって読み進めていけるのか、そのヒントはメインの登場人物、吉乃と霧島、そして翔真にある。

 吉乃は女性読者からも人気のある稀有なヒロインだ。彼女は平穏に生きてきて、わがままも言わず贅沢もしない、漫画的な「お金持ちの娘」とはかけ離れたタイプなのだが、ぶれない芯を持っている。周囲は強い男ばかりで、危険な目に遭ったら逃げることも助けてもらうこともできるのに、彼女は決して誰かに頼ったり甘えたりしない。自ら身を張り危険な事態に立ち向かっていく。

 すべてを計算しつくし、ヤクザ相手の喧嘩でも圧倒的に強い霧島が、吉乃の予期しない行動に驚かされるという事態がそこに生まれる。霧島は自分の思い通りにならない女が大好きだ。それを貫いている吉乃は霧島の想像をはるかに超えた存在である。

 彼女に惹かれる霧島も「主人公の相手役」という範疇の外にいる。わがままで自分勝手な女性に振り回されるのが大好きで、ほぼ笑顔だが残虐な一面もある。高校生でありながら、どこまでが本当でどこからが虚構なのか見抜けない登場人物だ。

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