ヒップホップ、ゾンビ、おじいさん……多様化するBL漫画、2021年のおすすめは?
『BOYS OF THE DEAD』
ファンタジー作品の中には「人外」と呼ばれるジャンルがある。もちろんBL漫画でも、多くの作品が名を連ねる一大ジャンルだ。ただその中で非常に珍しいのが「ゾンビ」を題材にした「ゾンBL」だろう。そんなゾンBL界に、新たな風が吹かせた作品が『BOYS OF THE DEAD』だ。本作では感染してしまえば最後、自分もゾンビになってしまう極限の世界を舞台に、3つの物語が繰り広げられる。この世界においてゾンビは世界を破滅しかねない、常識的に見れば存在してはならない、いわゆる“悪”だ。ただそれが、自分の愛する人だったらどうだろう。世界の破滅か、愛する人か―—。3つの異なるストーリーを通して読者は、究極の選択を突きつけられる。と同時に「誰かを愛する」という行為は本来、道徳も倫理も超越したところに存在するものであること、そしてその行為こそが人が生きた証明になるのかもしれないと考えさせられるのだ。
また本作は、物語の構成にも注目してほしい。本作の3つのストーリーに出てくるメインキャラクターは、それぞれ異なる。ただ各ストーリーのキャラクター同士が何かしらの形でリンクする構成を採っているのだ。異なる視点で描かれる物語同士が繋がることよって、キャラクターが別のストーリーで見せた考えや行動の理由も見えてくる。
さらに、本のデザインにも抜け目がない。作者の富田童子はBLポータルサイト「ちるちる」のインタビューで、時代背景を1970年代のアメリカにしたと語っている。それに伴い昔の漫画を研究し、当時の絵の描き方や表紙のデザインを再現するよう努めたそうだ。さらにカバー下にも、ハッとする仕掛けがある。全てを読み終えた後にめくって、徹底して作り込まれた世界観を堪能してほしい。
漫画は電子書籍でも読める時代だが、ぜひとも紙の本で手元に置きたい一冊である。
BL漫画 豊富なジャンルを楽しんで
BL漫画は、ジャンルの豊富さに目を見張るものがある。ハッピーエンドやシリアス、コメディなどのストーリー、学園モノやファンタジーなどの舞台設定、幼なじみや上司・部下などの人物相関、眼鏡や黒髪、素直といったキャラクターの特徴や性格、さらには攻め受けという独自の文化で生み出されるさまざまなカップリングによって、あらゆるジャンルが存在している。今回紹介した3作だけでも、その多様性を感じていただけたのではないだろうか。
BL漫画のジャンルはこれからもきっと、時代の変化に合わせて広がりを見せていくだろう。そしてその多様性は、ますますBL漫画界の可能性を広げてくれると思うのだ。
■クリス
福岡県在住のフリーライター。企業の採用やPRコンテンツ記事を中心に執筆。ブログでは、趣味のアニメや漫画の感想文を書いている。ブログ・Twitter。
■書籍情報
『いとおしき日々』
sono.N 著
価格:本体660円+税
出版社:メディアソフト
公式サイト
『WACKER'S DELIGHT』
二戸謙介 著
出版社:茜新社
公式サイト
『BOYS OF THE DEAD』
富田童子 著
価格:本体670円+税
出版社:プランタン出版
公式サイト