『同級生』BLをファンタジーとして消化させない——佐条と草壁の恋にリアリティを感じる理由

『同級生』BLをファンタジーとして消化させない——佐条と草壁の恋にリアリティを感じる理由

 昨今のBL漫画において同性であることが恋愛のハードルとなっている描写は、以前よりも薄れてきているように感じる。主人公の友人が、カミングアウトをすんなりと受け入れる描写も珍しくない。

 どこにでもある恋愛として日常に溶け込んでいるような感覚になる。ただ本を閉じ現実にかえった時、「本当にそうだろうか」と考えるのだ。

 カミングアウトを受けたとして、BL漫画のキャラクターのように受け止められるか、自信がない。またもし自分が身近な人に同性のパートナーを紹介をするとなったら、どんな反応が返ってくるかを想像するだけで怖い。普段は表に出さないけれども、某政治家や議員の発言から見てとれるように、同性愛に誤った認識を持った人も世の中には一定数いると思うからだ。

 こういう感覚が自分の中にあるからか、BL漫画の中で男性同士の恋愛が世の中にすんなりと受け入れられているような描写があっても、どこかファンタジーめいた印象を拭いきれない。

 ただ『同級生』シリーズを読んだ時は、その感覚がほとんどない。その理由は、メインカップルの佐条と草壁を取り巻く周囲の人々や環境から現実に近いものを感じるからだ。

(以下、ネタバレあり)

佐条利人と草壁光の関係に感じるリアリティ

『同級生』

 『同級生』シリーズは、名前さえ書けば合格できると言われる男子校で出会った、佐条利人(さじょうりひと/以下、佐条)と草壁光(くさかべひかる/以下、草壁)の恋愛を描いた作品だ。

 絵にかいたような優等生である佐条と、見た目は不良な草壁。一見すると交わることのないふたりが合唱祭以降、頻繁に一緒にいるのを見た同級生の中には、彼らの交際をうわさする者もいた。

 ふたりの関係を知ろうと、友人が草壁に「ソレ系のうわさがある」「男子校ならではのアレ」と間接的にたずねるシーンがある。別のシーンでは、言葉がつっかえながらも意を決した様子で付き合っているのかと直接的に聞いている。その質問に草壁は付き合っていると打ち明けた、さらに引いたかどうかたずねるのだ。そんな草壁に友人は、引かなかったがビビったと答える。その回答の際に、言葉を選ぶような“間”が見られるのだ。

 シリーズのオムニバス作品集『O.B.』で登場した佐条の大学の友人・城ノ崎にも、似たような言動が見られる。高校の同級生と付き合っていると言った佐条に城ノ崎が、その学校は男子校ではないかとたずねたシーンだ。質問に対する佐条の態度に「しまった」と思ったのだろう。城ノ崎は翌日、佐条に不自然なほど明るく話しかける。しかし佐条に「気をつかわせているのか」と図星を突かれた城ノ崎は、「気をつかっていないといえばウソになる」と弁明する。また自分がした質問に対し「変なことを聞いた」と言いかけ、“変”という言葉を訂正しようとするものの、うまく言葉が見つからない様子も描かれていた。

 昨今LGBTQという多様な性を表す言葉が日常のあらゆる場面で見られるようになったものの、それでもやはり他人の性自認や性的指向の話題はタブーといった風潮は少なからずあると思う。そもそも、性自認や性的指向について、あえてカミングアウトしなければいけないというものでもない。また恋愛対象が異性の人の場合、同性を好きになる気持ちを真に理解しようと思っても難しい。だから身近な人の恋愛対象が同性かもしれないと気付いたり、同性のパートナーと付き合っていると打ち明けられたら、相手を傷つけない反応を必死に探して戸惑ってしまうのも無理はないだろう。

 『同級生』シリーズを読んでリアリティを感じるのは、歯切れの悪い言動をした佐条と草壁の友人の姿に“カミングアウトの正しい受け止め方に迷う自分”が重なるからだと思う。そしてふたりとその後も友好関係を築いている友人たちの姿に、自分を信頼しカミングアウトしてくれた相手へ下手でもいいから感じたことを伝えるのも間違いではないと気付かされるのだ。

ふたりの約束と壁

 もう1つ、『同級生』シリーズにリアリティを感じる理由がある。それが“法の壁”だ。作者の中村明日美子氏は、実はここまで続編を書くつもりがなかったと、『blanc』のあとがきに記している。大人になってからの物語が佐条と草壁にとって辛いものとなり、そしてそれを描くことがいいことなのか分からなかったという。この辛いものの1つに、ふたりがぶつかった法の壁が含まれると思う。

 佐条と草壁は高校を卒業する日に20歳になったら結婚しようと約束を交わしている。

 一般的に同性カップルが結婚しようと思ったら、養子縁組で親子関係になるか、パートナーシップ制度を導入している自治体でふたりの関係を証明、承認してもらうこととなる。

 法的にさまざまな権利が得られる身内となり同じ戸籍に入るか、戸籍は別のまま書面上でふうふ関係を宣誓するのか——。シリーズ最新作『blanc(ブラン)』でふたりは、同性婚にまつわる制度が変わっていくかもしれない中で養子縁組をしていたら動きづらくなるだろうと、同じ戸籍に入る選択を一旦延期した。しかしこれが、ふたりの間に距離を生むきっかけとなってしまう。異性カップルに当たり前に用意されているふうふとして同じ籍に入るという選択肢がないことで、ふたりは傷つくのだ。

 彼らにとって辛いことだと分かりつつも、現実にもある同性カップルの結婚に立ちはだかる大きな壁を描く。シリーズ最新作で描かれた“現実でもありえること”が、シリーズ全体のリアリティにさらなる深みを与えたと思うのだ。

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