「本物の○○を食べさせてやる」 『美味しんぼ』山岡士郎、権力者を唸らせた料理4選
シマアジ
日本最大の電機メーカー大日エレクトロン黒田社長の別荘に招かれた東西新聞社の谷村部長、山岡、栗田。黒田社長は料理が趣味で、得意先に加え自社の成績優秀者を招き、腕を披露する。巨大ないけすからシマアジを取り出した黒田社長は、見事な手際で魚を下ろす。しかも丸形になった調理場が回転し、双方向から捌く様子が観覧できるという演出までついていた。
味見をした成績優秀者の子供は、社長に感想を聞かれると「ちっとも美味しくない」と「三崎のおばあちゃん家で食べてるからわかる」などと正直に答えてしまう。社長は成績優秀な父親に「会をぶち壊してくれた」と怒る。ここで山岡が「その子の言うとおりですよ、このシマアジはちっとも上手くない」と断言。怒る黒田社長に「本当に美味いシマアジを持ってくる」と啖呵を切った。
山岡は三浦半島の三崎に向かい、魚屋でシマアジを見かける。するとすぐに購入意思を見せ、活け〆にするよう頼む。栗田はこれを見て、「生きているシマアジに死んだシマアジは敵わない」と強行に反対をする。山岡はその発言に耳を貸さない。
そして黒田社長の調理場に戻った山岡は活け〆にしたシマアジを振る舞う。「死んでいるシマアジが美味いはずがない」と高をくくった黒田社長だが、出席者の評価は死んだ山岡のシマアジのほうが美味しいというもの。
山岡は黒田社長のいけすに入ったシマアジがエサをもらっていないことを指摘。餌を与えられず痩せ細っていたため、鮮度が落ちていたのだ。黒田社長は素直に非を認め、「まずい」と指摘した子供にディズニーランドの招待券を贈ったのだった(2巻)
子供の窮地を救った山岡の行動と、非を素直に認めた黒田社長。どちらもアッパレであった。
古酒
究極のメニューについて文芸評論家の古吉に取材することになった山岡と栗田。根っからの酒好きで、ウォッカやバーボンを好んでいる古吉だが、日本の酒にはスピリッツがない。だから日本にはロクな文学がないと憤りを見せる。
古吉はアルコール度数40度以下の酒はスピリッツがないと豪語。山岡は「沖縄の泡盛がある」と話すが、それも否定した。すると山岡は「酒を文学に例えていながら、酒についての知識がこの程度じゃあんたの文芸評論家としての底が見えたな」と啖呵を切る。
さらに「西洋かぶれのインテリは情けないぜ」と追い打ちをかけると、怒った古吉は東西新聞社に圧力をかけ多くの作家に執筆拒否を強要した。大原社主に叱られた山岡は「あのおっさんの酔いを覚ましてやる必要がある」と、沖縄行きを提案。沖縄では、山岡が「東西新聞社をクビになった」としてタクシー運転手になり、泡盛の酒蔵へと向かう。
酒蔵で100年寝かせた古酒を見た古吉はそれでも小馬鹿にしていたが、飲んでみると絶賛。すっかり古酒にハマってしまい、文学なんかやってられないとまでいうようになってしまった。(10巻)
相手がどんなに権力を持っていたとしても、自説を曲げず味で評価を覆す。山岡の真骨頂だ。
自信と知識、そして目上を恐れない姿勢が魅力
一見喧嘩を打っているように見える山岡だが、その発言は確固たる自信と知識があってのもの。そして噛み付く人間は、常に自分より権力を持つ人間である。そんな自信と知識、そして目上の者を恐れない姿勢が、読者の支持を集めた要因なのかもしれない。