『キン肉マン』バッファローマンの“裏切り”はなぜ人々を魅了する? レスラーセンス溢れる“ベビーターン”を考察

『キン肉マン』バッファローマンの“裏切り”

バッファローマン=武藤敬司説

 正直に言うと、その後の悪魔将軍との戦いに関してはあまり触れるべきところはないが、そこまでのインパクトを残しておきながら悪魔将軍に惨敗することで、悪魔将軍の圧倒的な強さを印象付ける。星を売って対戦相手の格を上げ、自らの印象もしっかり残す。あまりにもレスラーとして巧みすぎるではないか。

 また、転んでもタダでは起きないのがバッファローマン。ここでお役御免と思いきや、キン肉マンと悪魔将軍の頂上決戦のクライマックス、注目度最大マックスのその瞬間に介入。実体をもたない悪魔将軍の本体である黄金のマスクを被り、自らの身体を悪魔将軍の実体として、キン肉マンに捧げるのである。このバッファローマンの世紀の介入劇によって、キン肉マンは後々も恐れ続けることになる作中最強最大の敵、悪魔将軍に辛くも勝利することができた。ここでもバッファローマンは悪魔将軍の格を落とすことなく敗北に導き、ベビー転向の手向けとしてキン肉マンの勝利に絶妙なアシストを果たし、なおかつ自らの見せ場も作るという千両役者ぶりを遺憾なく発揮し、自身が敢行した最大の裏切り劇をこの上ない形でやり切ってしまった。

 以後バッファローマンは正義超人の一員として、その武名をほしいままにした……かと思いきや、そこは一筋縄ではいかない。

 おそらくこの世紀の裏切り劇に味を占めてしまったのだろう。直後の「超人タッグトーナメント編」では外的要因もあるものの、正義超人の友情自体の裏切り行為に加担しつつ、名タッグチームである2000万パワーズとしてその名を残す。続く「キン肉星王位争奪編」ではキン肉マンチームの助けに加わるのではという大方の期待を裏切り、まさかのソルジャーチーム、超人血盟軍入り。現在でも人気の高い注目のユニットの一員にあっさり加わってしまうあたり、本当に抜け目がないというか、鼻が効きすぎる。

 そして新シリーズ以降は再び悪魔超人にヒールターンし、完璧・無量大数軍、始祖相手に大立ち回りを演じる。その後、II世ではヘラクレスファクトリーの教官を勤めていたことからどこかのタイミングでベビーターンしたと思われるが、なんと節操のないことか(笑)。

 しかしこのバッファローマン、これだけコロコロ鞍替えしているにもかかわらず、正義超人からも、そして悪魔将軍をはじめとした悪魔超人からも異様に信頼されているその処世術の巧みさ。そしてファイトスタイルはベビーであろうがヒールであろうが基本変わることなく、わかりやすいド直球のパワーファイト。シングルだけでなく、2000万パワーズ、ディアボロスとタッグ戦線でも名勝負製造機の名をほしいままにするほどの活躍っぷり。

 バッファローマンの試合に外れなしというのはキン肉マン界の定説であるが、これだけ名勝負を生み出せるのも、ひとえにバッファローマンの人心掌握術と、善悪の属性すら自由に操るセルフプロデュース能力の高さ、そして確立されたファイトスタイルによるものが大きい。ファイトスタイルは違えど、見ているこちら側の心を思いのままに操るそのやり方には、武藤敬司レベルのプロレス脳の高さを感じずにはいられない。キン肉マン界のナチュラルボーンマスターは、案外バッファローマンなのかもしれない。

■関口裕一(せきぐち ゆういち)
スポーツライター。スポーツ・ライフスタイル・ウェブマガジン『MELOS(メロス)』などを中心に、芸能、ゲーム、モノ関係の媒体で執筆。他に2.5次元舞台のビジュアル撮影のディレクションも担当。

■書籍情報
『キン肉マン(13)』
ゆでたまご 著
価格:本体440円+税
出版社:集英社
公式サイト

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