コロナ、都知事選、終末医療……2020年、ノンフィクションは何を描いたのか?

2020年ノンフィクションは何を描いたのか?
『女帝 小池百合子』(石井妙子/文藝春秋)
『女帝 小池百合子』(石井妙子/文藝春秋)

 新型コロナ以外のノンフィクションで目立ったのは都知事選を前にして5月に刊行された『女帝 小池百合子』(石井妙子/文藝春秋)だ。都知事選のあった6月には総合で5位にランクインしている(日販調べ)。

 都知事選、オリンピック、コロナ対策と連日テレビに登場していた小池都知事の本ということで注目度は高く、都知事としての資質など問題提起を孕んだ内容のノンフィンクションだ。(都庁内の書店チェーンでもよく売れたと話のネタになっていた)ただし全国的にみれば東京と神奈川、埼玉、千葉の首都圏で販売シェアの51%を占めており、かなり限定された本であることは付け加えておく。

『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子/集英社インターナショナル)

 そのほかでは著者自らが立ち会った終末医療を描いたノンフィクション『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子/集英社インターナショナル)が、先ごろ発表された第3回yahoo!ニュース|本屋大賞の〈ノンフィクション本大賞〉を受賞している。

 ここからは個人的な感想となるが、夏以降に刊行されたノンフィクションでは後半の章やあとがきでコロナ禍について触れている本に出会った。

 本サイトでも寄稿した『ルポ新大久保』(室橋裕和/辰巳出版)や『フットボール風土記』(宇都宮徹壱/カンゼン)、その他にも『夢幻の街 歌舞伎町ホストクラブの50年』(石井光太/KADOKAWA)や『地方選 無風王国の「変人」を追う』といったノンフィクションでも新型コロナについて言及されている。今後、ノンフィクションではテーマに関わらず新型コロナがどこかに影を落とすことになっていくのだろう。

 ノンフィクションには著者の視点から読者が新たな視点を獲得する醍醐味がある。

物書きの醍醐味は反対を唱えること。一方向に流れている時に「あっちを見て」と視点を変えるように。それでより軽視されている事柄を支援することになる。

 作家であり批評家のスーザン・ソンタグのこの言葉は強く心に残っている。国家や国民といった単位で大きな流れが生まれてしまう現在の状況の中で、読者の視点を広く指し示してくれるのもまたノンフィクションの力でもあると思うのだ。

※)実はノンフィクションというジャンルは、出版流通では正式には存在しない。試しにお近くにある書籍を手にとって裏表紙を見ていただきたい。二つのバーコードとともに13桁のISBNコードと、Cから始まる4桁の数字からなるCコードがあるはずだ(もしなければ一般に書店などで出版流通されていない本、例えば映画などのパンフレットや、美術館などの図録、同人誌や自費出版本などがある)。Cコードの1桁目は販売対象の“一般(0)”、“教養(1)”など9つが9番まで割り振られ、2桁目は単行本(0)、文庫(1)、コミック(9)といったように本の形態を示す。そして3、4桁目の数字が本の内容を示すコードとなっており、小説なら“日本文学、小説、物語哲学(93)”、日本史の本なら“日本歴史(21)”など本の内容を表すコードになるが、そこにはノンフィクションという分類はない(95番の“日本文学、評論、随筆、その他”になっていることが多い)。

■すずきたけし
ライター。ウェブマガジン『あさひてらす』で小説《16の書店主たちのはなし》。『偉人たちの温泉通信簿』挿画、『旅する本の雑誌』(本の雑誌社)『夢の本屋ガイド』(朝日出版)に寄稿。 元書店員。

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