まんきつ、アルコールを手放して見つけた新たな生き方 「気功を習ったら、ちゃんと手から何かが出るようになりました(笑)」

まんきつ、新たな自分との向き合い方

 漫画家・まんきつによるノンフィクション漫画『アル中ワンダーランド』の文庫版が、9月25日に発売された。2015年に発売された本作は、自身のアルコール依存症体験を惜しみなく披露し、デビュー作にして累計7万部のヒットを記録。文庫版には、その後の日々を描き下ろしたおまけ漫画、そしてまんきつが敬愛してやまない小説家・吉本ばななとのスペシャル対談が収録されている。

まんきつ『アル中ワンダーランド』(扶桑社)

 生きにくさをカバーしようと飲み始めたアルコールに、人生を飲まれてしまうという落とし穴。それは、いつでも誰でも落ちうるのだということを教えてくれる本作。2020年の文庫化は、未知の新型ウイルスの襲来、急激な生活様式の変化……など、ストレスを多く感じる今こそ身体と心を整える大切さに気づかせてくれるようだ。

 アルコールとの距離を取り、今は毎日清々しい気持ちで朝日を浴びているというまんきつ。彼女が見つけた新たな自分との向き合い方について聞いた。(佐藤結衣)

アルコール以外の逃げ場、遊び場を作っている最中

――『アル中ワンダーランド』が発売されて約5年。「その後」が気になっていた読者も多かったと思います。文庫版に収録されたおまけ漫画以降、どんな生活をされていますか?

まんきつ:毎朝、幸せな気持ちで目覚めています。今日も生きている。ありがたいって。それだけ聞くと、怪しいですよね。何か変な宗教にでも入ったのかな、みたいな。でも愛する犬やサウナ、友達を大事にする毎日という意味では、たしかに信仰しているのかもしれません(笑)。

とにかく、毎日を快適に楽しく過ごしたいんですよ。いかに気分良く暮らすかに全力をかけています。たとえば、うちの天井に鍵フックをつけて、そこに麻の縄を通して輪を作って、iPadを引っ掛けるとね、寝たまま『愛の不時着』が見られるんですよ。だから、もう2周目を見ちゃってるくらい(笑)。そんな工夫をすることばかり考えています。以前は逃げ場がアルコールだけだったのですが、いまは自分にとっての遊び場をたくさん作っている最中です。

――最近、気功にもハマっているそうですね?

まんきつ:もともと雑誌『maybe!』の「目指せ◯◯への道」という連載で、潜入漫画を書いていて、そこで「どうせやるなら、めちゃくちゃ怪しいやつに行ってみよう」ということになったんです。その候補のなかに「手かざし」があって。「怪しい!」と思って行ってみたら、「これはすごい!」ってなっちゃったんです。気功を習ったら、ちゃんと手から何かが出るようになりました(笑)。それで、“気功整体を仕事にしたいな”と思ったんですが、いきなり働かせてもらえるところがなかったので、今は普通の接骨院で整体師として働いています。

――まさか新しいお仕事までされていたとは驚きです。普通の整体と気功整体は違うものですか?

まんきつ: いわゆるポキポキってやる整体に対して、最後に気を流して身体のつまりを循環させるのが気功整体です。すごく温かくなるんですよ。低周波治療器みたいな感じで、ビリビリってきます。最近は、愛犬をなでながら気を流してるんですけど、本当に気持ちよさそうにしていますね。でも「手から気が出ます」「レイキの資格持っています」と言っても、未経験なのでなかなか採用されなくて、5社くらい受けたのかな? 今、働いているところは縁があったのか、とんとん拍子に決まりました。

――先ほどおっしゃっていた「レイキ」とは?

まんきつ:手当て療法やエネルギー療法といわれているもので、日本だと胡散臭いって言われてしまいがちな部分ですが、海外だと国家資格にもなっていて、保険を適用している国もあるんです。私は、その手かざし体験のあと、レイキの学校に通うことにして。授業を受けているうちに、オーラが見えるようになりました。

――オーラって訓練して見えるものなんですか?

まんきつ:私も今までオーラって見えたことがなかったんですけど、見えるという人に聞くと「青と黄色」って、みんな同じ色を言うんです。で、レイキの先生にもお聞きしたら、やっぱり「藍色と黄色」って。オーラってあんまり霊感とかと関係ないんですって。ただ、ちょっと目の使い方が独特で。その目の使い方さえ覚えれば、集中すると見えるようになるとか。あの3Dで数字とか形が浮き上がってくるやつ、あるじゃないですか。2つの黒い丸を見るやつ。私が教わったのは、あれと同じ目の使い方で。一点を凝視するというよりも、全体をぼんやりと見るような……。

――輪郭がボヤッとして影送りみたいな感じになりますね。

まんきつ:そうそうそう。その影送りみたいな感じのところに、色がついて見えるんですよ。訓練すれば本当に誰でも見えるようになるんですって。私も半年で見えるようになりました。ただね、「気が合わない」って言葉があるみたいに、気功って本当に相性があるんですよ。私もいろいろ気功整体に行きましたが、逆に毒をもらっちゃったみたいに具合が悪くなったときもあって。口コミを見て色んなところに行きましたが、本当に「ここは本物だな」と思ったところは2か所だけです。そういうところは料金もすごく安い。

――確かに、薬も体に合わなければ毒ですもんね。

まんきつ:病院も、先生も、結局は相性が大切です。気功とかオーラって、今はまだ不思議なものっていう印象ですけど、ヨガも初めて日本で広まり始めたときは「ちょっと怪しい」って言われていたんですよね。でも、今はすごくオシャレなものになってきた。気功も、いつか……20年後くらいにはカジュアルなものになってくれるじゃないかなって思います。ただ、胡散臭いものが多すぎる。ヨガだけで病気が治らないのと一緒で、気功だけで病気は治りませんし、高額を請求するものはほぼ詐欺だと思いますよ。病気になったらちゃと病院へ行く、とか護符に10万も20万も払わないとか、高額のセミナーには参加しない、とかそういうことを広めるのも私の役目だと思うので。

――まんきつさんは、もともと目に見えない何かについて興味がおありだったんですか?

まんきつ:うちは祖母が、そういうおばあちゃんだったんです。よく「トイレに神様がいる」とか言いますけど、八百万の神を大事にしていて。「枕を6回叩けば朝6時に起こしてくれるよ」とか「田植えの夢を見たからご近所の誰かが亡くなるよ」とか、小さい頃からそういう迷信みたいなことを徹底していました。お墓で転んだら厄落としみたいな感じでお金を置いていったり、頭が痛いときは梅干しをこめかみに貼ったり。スピリチュアルな感覚が鋭いわけではないんですけれど、不思議に思いながらも目には見えないものを受け入れる気持ちは強いかもしれません。

――おばあちゃんの知恵袋には、後に検証したらちゃんと科学的な効能があったというものも少なくないですしね。

まんきつ:そうなんですね。うちの祖母が食べ終わった後のスイカを顔に塗りたくっていたんですけど、実際に調べたらビタミンとかで、ちゃんと美肌効果があるって聞いて、理にかなってる部分もあるんだなって思いました。なので、今でも節分の日にはイワシの頭を玄関に飾ったり、5月5日には菖蒲湯に入って……っていう季節行事は必ずやっています。そういうことを大事にすると、自分がちゃんと生きてる感を持てるような気がしますね。

――気功を極めると、自分自身の気のコントロールもできるようになるのでしょうか?

まんきつ:そこは全然わからないんですけど、ただ調子の良いときは指先から1mくらいの光が伸びているのが見えるんですよ。面白いですよね。でもそういうのって絶対リラックスしてるときじゃないと見えないんです。だから人間って、心底リラックスするのがすごい大事なんですよね。サウナと水風呂とかも、よく頭がスッキリして思考力が上がるみたいに言われてますけど、そのリラックスしてる状態っていうのがものすごい脳にいいんじゃないかしら。

心を整える第一歩は、肉体の不快をないがしろにしないこと

――なるほど。まんきつさんがアルコールを手放した後にハマった、サウナや気功整体って一見すると別ジャンルのようですが、身体を整えるという意味では同じですね。

まんきつ:たしかに。私は楽しいからやっているだけでしたけれど。でも、今回文庫版に収録された吉本ばなな先生との対談で「現世にいる証拠って、この肉体だけ」っていう言葉が出てきたんですけど、やっぱり肉体を意識的に整えていくのはすごく大事なことなんだなって思いました。どんなに気持ちを落ち着かせようとしても、その器の身体が整ってなければ、入っていかない。

――「肉体の不快に焦点を当てる」というキーワードは、読んでいてハッとしました。

まんきつ:本当ですよね。私たちはつい快を求めるほうに目を向けがちですけれど、不快をちゃんとイヤだと思うことって、わかっているはずなのに目をつぶっちゃうというか。吉本先生は本当にすごいことをおっしゃいますよね。先生のおかげですごくいい対談になったと思います(笑)。

――『アル中ワンダーランド』を読んでいると、依存症は決して他人事ではない、という気持ちになります。きっと、それは誰もが自己肯定感が低下する瞬間があるから。自分とうまく付き合っていく方法が見つからず、何かにすがりたくなる気持ちはすごく身近なものに感じました。

まんきつ:自分のことを知るのも、理解するのも、本当に難しいんですよね。私、ずっとこの生きにくさは自分がADHDだからだと思っていたんです。でも、関連した本をたくさん読んでも全然ピンと来なくて。ある日、ふとアダルトチルドレンの本を読んだら、すべて当てはまって。ああ、今まで読む本を間違えていたなって。自分のことを誤って理解しようとしていたことに気づいたんです。本によるとアダルトチルドレンの方々は、カウンセリングを通して自分と付き合う方法を得たって書いてあることが多かったので、私もそこでようやくカウンセリングに行くようになりました。それをきっかけにトントンと楽になっていきました。いろいろワークがあるんですよ。自分を癒す方法だったりとか、イヤな自分を小舟に乗せて流したりとか。だから、今はすごく自分のことが好きです。

――情報がたくさんあると、ヒントが多く見つかる一方で、誤った認知をしてしまうきっかけもたくさんありますね。

まんきつ:思い込みだったり、誰かの言動による呪いだったり、世間のしがらみだったり……そうした複雑に入り組んだ問題を、本当は「こうしたらいい」とわかっている自分がいるというのは理解できます。

まんきつ:現状をどうにかしようと見つめても、その原因は1つじゃないかもしれないし、もしかしたら幼少期にまで遡らないと絡み合った問題の糸口が見えてこない場合もある。私はお酒を飲むことで「1日が早く終わってほしい」と思っていた。今考えると、飲むことと1日の経過の話は別なんですけど、その矛盾に気づけないくらい、いろんなものが絡まっちゃってたんでしょうね。

――「大丈夫」にしろ「ダメだ」にしろ、誤認識してしまうことってありますよね。個人的な話なのですが、心がザワザワすると思っていたことって、実は便秘が原因だったんじゃないかと思うことがあって。

まんきつ:わかる、それ! 私も夜「胸がザワザワする」って、絶望したんだけど、トイレにいったらスッキリしたことありますよ。

――身体が溜め込んでいる不安感というか、体の健康が傾くとザワザワするようにできているのかなと思ったんです。

まんきつ: そうかもしれないですね。だから、一つひとつ見つめていくのって大事なんですよ。そうして頑なになったモヤモヤを少しずつほぐしていくと、警戒心もほどけていくし、呪いも解けるはずなんですけど。それが、やっぱり難しい。

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