『HUNTER×HUNTER』屈指の名バトル「ヒソカ対クロロ戦」を徹底考察 ふたりの勝敗を分けたのは?

『H×H』ヒソカ対クロロ戦を徹底考察

 これに対してクロロと幻影旅団が共闘していた説を支持する人たち(以下、共闘説派)が、以下のような描写をその根拠に挙げることが多いようだ。

・クロロが【盗賊の極意】で、シャルナークの【携帯する他人の運命】(※P13)とコルトピの【神の左手悪魔の右手】(※P30)を使っていたこと。

・戦いが終わった後、シャルナークとコルトピとマチが、現地でヒソカの死亡を確認していた(※P129)こと。

 マチに関しては【携帯する他人の運命】のアンテナが消えたことについて、ヒソカが「釣り糸でも結んでおいて引き寄せたか…」と推測する(※P47)ことから、マチの念糸を連想した人も多いようだ。

 また本格的な戦いが始まる前にクロロが能力者の工夫としてヒソカに語った台詞「能力を極力隠したり」「戦う場所や相手を慎重に選んだりチームで戦ったり」(※P28)や、死後復活したヒソカにマチが語った「これに懲りたら今度からは」「戦う相手や場所はちゃんと選ぶ事だね」という台詞(※P137)も共闘を連想させる。

 そして何より強い理由として挙げられるのが、⑦でヒソカを襲ったコピー人形の数が不自然に多すぎること。確かにヒソカは⑥の時点で残りのコピー人形の数を20~30体と予想したが、実際にはその6~10倍にあたる200を超える数が押し寄せた。これらの人形を作るには【神の左手悪魔の右手】→【番いの破壊者】→【人間の証明】と3段階と3つの能力が必要だ。ヒソカと戦っている間、クロロにそんな時間はなかった。

 だからクロロは客席にいたコルトピに【神の左手悪魔の右手】の能力を返して、対決中に、どんどんコピー人形を増やしていってもらったのではないかというのが、共闘説派たちの推測となっている。確かにそれなら簡単に説明がつくが、本当にクロロ単独で、これだけの数を作ることは不可能なのだろうか?

 もしヒソカの予想通りコピー人形が20~30体残っていれば、クロロが作るのは180~170体。クロロがこうした人形を作る時間をヒソカは一体あたり「1~2秒」(※P89)と推測しているから、かかる時間は3分から6分ほど。⑥でクロロが【携帯する他人の運命】を解除して(P85)コピー人形が200体以上とアナウンスされる(P100)まで、ヒソカが推理&観客席の様子見をしている間(P85-92)が7ページ、襲いかかってきた人形とヒソカが戦っている間(P93-99)が7ページの時間がある。

 漫画というメディアの性質上読み手によって体感時間は異なるが、個人的にはこの間に3分くらいの時間は流れていても不自然ではないように感じる。またヒソカが「介抱者かクロロかの見分けもつかない」(P89)と言っているように、P85以降、観客席には動けない負傷者が大勢いる、クロロがコピー人形を作り紛らせるには適した状況であったであろうことも推測される。

 こうして【番いの破壊者】(太陽の刻印のみ)のコピーを1~2秒で大量に作り、ヒソカと戦わせて時間稼ぎをしているうちに、止めの【番いの破壊者】の太陽と月両方の刻印を両手に施した爆発力MAXのコピー人形(こちらは1体あたり5秒以上の制作時間が必要)を仕込んでいったのだろう。

 以上のことから筆者はヒソカ対クロロのタイマン説を取るが、もちろん共闘説を否定する意図はない。むしろひとつの対決をめぐり、これだけ様々な解釈が可能なこと自体が『HUNTER×HUNTER』の奥深さであり、それを楽しむことができるファンの豊かさの証左であると思う。

 実は、本稿を書いている途中で自分も、クロロとマチのみの共闘説が思い浮かんでしまったのである。最初、200体のコピー人形を作る時間はいつかと考えていた時、④のヒソカに肉弾戦を挑んだクロロも偽物で、その体術からマチが偽の【盗賊の極意】を持って演じていたのではないかと。それならば能力を貸していなかったマチが現場にいたこと、後に④でヒソカが攻撃を受けていた首回りを診て「首回りの痛みがやっぱり激しいね」と考えていた(P131)ことの説明がつく。もっとも⑧でヒソカが武器として使っていた首を爆発させるには、この時点で元の胴体に再度【番いの破壊者】で太陽の刻印をつけないといけないので、結局不可能なわけであるが。

 軽い気持ちで考え始めたヒソカ対クロロ戦の検証だが、正直まだまだ奥が深そうだ。年末年始、時間に余裕ができるこのタイミングで、『HUNTER×HUNTER』屈指の名勝負、ヒソカ対クロロ戦の考察に取り組んでみてはいかがだろうか。

■倉田雅弘
フリーのライター兼編集者。web・紙媒体を問わず漫画・アニメ・映画関係の作品紹介や取材記事執筆と編集を中心に、活動している。Twitter(@KURATAMasahiro

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