ブレイク寸前『呪術廻戦』の複雑バトルは『HUNTER×HUNTER』の発展系? “過剰な解説”の面白さ

ブレイク寸前『呪術廻戦』の魅力

 いよいよ10月からのアニメ放送が目前に迫り、大ブレイク間近と囁かれる『呪術廻戦』(集英社)。芥見下々が『週刊少年ジャンプ』で連載している本作は、人間の負の感情から生まれた呪霊を祓う呪術師たちを主人公にしたオカルトアクション漫画。

 主人公の虎杖悠仁は、呪いの王と呼ばれる特急呪霊・両面宿儺を身に宿す高校生。呪術師となるため、呪術高専(東京都立呪術高等専門学校)に転入した虎杖は、師匠の五条悟の指導を受けながら、伏黒恵、釘崎野薔薇たち呪術師と共に呪霊と戦うことになる。

※以下ネタバレあり。

 10巻以降、物語は2018年の10月31日のハロウィンの夜に渋谷で起きた戦い・渋谷事変が進行中。物語は混迷を極めており、11巻で、五条の親友で今は人間と敵対する呪詛師に堕ちた夏油傑が、実は脳を何者かに乗っ取られた偽物だったと判明。そして五条は偽夏油に封印されてしまう。最新巻となる12巻では、五条を救うために渋谷駅構内で呪霊と戦う虎杖たち呪術師の姿が、同時進行で描かれる。

 クールなナレーションで状況を解説しながら進行していく群像劇は冨樫義博が『HUNTER×HUNTER』(集英社)で見せたバトルを発展させたもので、見応え抜群である。

 この巻の見どころは、虎杖と脹相の対決。虎杖を見つけるや否や脹相は、血液を加圧して限界まで圧縮する赤血操術「百歛」を発動。「百歛」で圧縮した血液を一点から開放し、弾丸のように撃ち出す(その初速は音速をも超える)「穿血」を発射する。

 脹相は人間と呪霊の血を引く胎児の肉塊・特急呪物「呪胎九相図」が受肉した存在だ。脹相は「受胎九相図」の長男で、次男の壊相と三男の血塗は、虎杖たちに退治されていた。

 弟たちを倒した虎杖に「お兄ちゃん」として戦いを挑む脹相。絶体絶命の危機の中、肉体を失い、今は小さな円盤の姿をしている呪術師・メカ丸の助言を聞いた虎杖は、トイレへと逃げ込む。警戒する脹相にメカ丸は「弱虫なんだナ」「弟と同じデ」と挑発。怒った脹相がトイレに飛び込むと、スプリンクラーや水道が破裂し中は水まみれとなっていた。

 赤血操術は術式効果を上げるため、血液の凝固反応が常時オフとなっていた。そのため、脹相の血液は水に晒されると溶けてしまい、加えて水にさらされた血液の中では浸透圧によって赤血球が膨れ細胞膜が破れていく。その結果「血液の約45%を占める血球成分が支配(コントロール)できなくなり『百歛』は説かれた」と解説される。

 正直に言うと何を言っているのかよくわからないのだが、呪術の原理原則を細かく説明してくれるところこそ、本作の面白いところだ。血液を固めて武器にするという技は、ジャンプのバトル漫画でも散々描かれてきたもので新味はない。しかし荒唐無稽な技に対して、細かく理屈付けをし、それを渋谷駅地下という現実の空間で展開することで、本作のバトルは過去作にはない説得力を獲得している。

 この過剰な解説こそが『呪術廻戦』の魅力である。難しい言葉が次から次に出てくるため、最初は敷居が高いのだが、何度も読み返すことで意味がわかってくると、今度は「どんな解説が来るのか」と楽しみになってくる。

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