『鬼滅の刃』大ヒットだけじゃない! 2020年、出版業界を揺るがした5大ニュース
世間的には2020年の出版業界と言えば『鬼滅の刃』一色だが、業界内的にはほかにも大きな出来事がいくつもあった。特に「本をいかに届けるか?」をめぐる問題が重なった年だった――今年を振り返っていこう。
新型コロナウイルス感染症流行で全国の書店が営業自粛
4月7日に緊急事態宣言が発令され、16日には対象地域を全国に拡大、5月25日に全国で解除されるまでの期間、書店も営業自粛(休業、時間短縮)となることが少なくなかった。
これまで地震や台風など自然災害に伴い一部地域で休業・時短営業となることはあったが、全国的に、というのはおそらく初めてのことだろう。
アルメディアの調査によれば、2020年5月1日時点の書店数は1万1024店(前年比422店の減少)。このうち売場面積を持つ店舗は9762店と実質的には書店は1万店を下回った。おそらくこのあと、多くの飲食店同様、コロナ禍が決定的な一撃となった書店も少なくなかっただろう(正確な変動は来年発表以降の統計を見なければ不明だが)。
新型コロナウイルス感染症流行でネット書店の物流が停滞
緊急事態宣言下でリアル書店で本に接することが難しくなり、版元的にも読者的にもネット書店に頼らざるをえなくなったところで、なんとオンライン書店でも出版物流が停滞。Amazonなどについては「医療品や生活必需品の輸送を最優先するため」と報じられた。
リアル書店の存在を考慮して直取引にあまり力を入れてこなかった出版社も、リアル・ネット両書店が厳しい状況に陥ると、積極的に取り組むようになった。
この混乱は緊急事態宣言が解除されると徐々に収まっていったが、出版関係者に出版物流やネット書店に対する不信と不安を高める機会になってしまった。
一方、リアルの物流とは関係のない電子書籍はよく動いた。
また、各社が主に外出自粛と休校を強いられている子どものために学習まんがなどを開放したことも印象的な出来事だった。
Amazonの返本(返品)がひどいと話題に
緊急事態宣言下では、出版社がAmazonに委託する(直でAmazonの倉庫に発送する)「e託」サービスで本の発注数・販売予測数が急減して複数の版元からクレームが発生したが、その後、8月から9月にかけてAmazonからの書籍の返品の質の悪さや量の多さに関する報告が出版社から多数あがり、10月には業界団体・日本出版者協会が抗議・要望を出した。
抗議文によれば「具体的には、返品する書籍を段ボールに梱包する際、平置きすべきところを縦に差すことで傷んでいる、また空いた空間に緩衝材を入れるなどの措置を取っていないため、段ボール箱がつぶれて商品が損傷している、といった商品そのものの扱い方と破損に対する報告が複数あります。そのほか返品伝票が破れていたり、印字が薄くて読めないといった報告もありました。返品の量に関しては、8月になって急に大量に返品が増えた、という報告が複数ありました」とのことだ。
e託は名前の通り委託、つまり出版社からするとAmazonに預けている商品(だからこそAmazon側が返本可能)であり、決済が終わっていない段階では会計上、出版社側の在庫である。つまり、Amazonの在庫ではない出版社の商品を、Amazon側で破損したのに平気で返してよこしているという、非常に悪質な出来事である。
ネット書店から始まったAmazonだが、もはや本は数ある商材のひとつにすぎず、ほかの利益率や単価が高い商品と比べれば軽んじられるようになってしまったと言わざるをえない。
この返本問題は、6月にアマゾンジャパンのメディア事業本部長が退職し、書籍事業部の後任がKindleのマネージャーとの兼任になったという人事が影響しているのではと一部では見られている。
なお、こうした抗議が関係しているのかは不明だが、e託は今年春頃までは新規受付をしていたが、その後、停止している(2020.12.7現在)。