青山美智子 × 後藤由紀子 特別対談:背伸びしない、快適な生き方のコツとは?

青山美智子 × 後藤由紀子 特別対談

それぞれの魅力


――それぞれの登場人物やストーリーにも、青山さんの経験などを反映させているんですか?

青山:今までは実際に経験してきたこと、人の話を聞いて面白いと思った部分などを書くことが多かったのですが、最近は取材することも増えてきました。ただ、自分にないものを無理に書くのではなくて、取材を通して、私が何を思うか?というのが大切で。ときどき「私、こんなに面白い体験したんですよ。小説に書いてください」という方がいらっしゃるんですけど、そういう話にはあまり興味がなくて、自分のことをつまらない人間だと思ってる方の話こそ、「素晴らしいな」と思うことが多いんですね。波乱万丈の物語を得意としている作家さんはたくさんいるし、私が書くのはそっちではないなと。

――普通の人々の暮らしや人生にこそ、描くべき物語がある。その考え方は、後藤さんが雑貨屋「hal」で“日々の生活のなかで、長く使える良いもの”を紹介していることにもつながりそうですね。

後藤:世の中の流行りがよくわからないんですよ(笑)。周りの友達の間で流行ってるものはあるんですけど、世間とはズレいるかもしれないし。まあ、それはそれでいいかなって。

青山:「お気に入りを見つける」って、意外と大変ですよね。今日付けているピアスも20年くらい使ってるんですけど、長く使えるものに出会えるとすごく嬉しくて。

後藤:そうですよね。私がオリジナルの商品を作るときは、「もうちょっとこうだったらいいのにな」という発想なんです。たとえばワンピースを見て、「ここは要らないのにな」とか「ここがもう少し短いといいのに」というのものを形にしていくのが私のモノ作りなので。

――それが後藤さんのオリジナリティなのかもしれないです。青山さんは下積み時代、編集者に「青山さんはいい人すぎて、小説に毒がない」と言われ続けたそうですが、まさに“毒のなさ”が青山さんの作品の魅力であり、読者を魅了する理由なのだと思います。

青山:ありがとうございます。ただ、私自身は「自分の小説にはいろいろな事件が起きているし、けっこう毒もある」と思ってるんですよ。たとえば殺人事件のような大きな犯罪は、逮捕されたり裁く人がいたり、解決のやり方がありますよね? でも、私たちの人生というのは、もっと小さな悩みが大部分を占めていて。人から「気にしすぎだよ」「みんなそうだよ」と流されてしまうような悩みがいくつもあって、それをクリアしないと先に進めないのが実情だし、私はそこを書きたいんです。なので私の小説にはじつは毒があるし、かなりエグイことも描かれてると、自分では思ってます。

――なるほど。特に今年はそうですが、世の中で信じられないような出来事が起きているからこそ、日常の小さな悩みや葛藤を描く意味があるのかもしれないですね。

青山:そうなんすよね。みんながマスクをしていて、考えられなかった毎日なので。後藤さんのお店にも影響があったんじゃないですか?

後藤:開店休業状態でしたね。それよりも友達のパン屋さん、レストランなども、急いで通販を始めて。その大変さはすごくわかるので、いろいろ取り寄せたり、ライブハウスに寄付していたら、その月の支払いがギリギリになっちゃって。友達に「まず自分の店を顧みなさい」と叱られました(笑)。

——最後に、今後の作家活動のビジョンについて聞かせていただけますか?

青山:先ほどの“無理しない”という話にもつながるのですが、これからは体が資本だと思っています。若いときはちょっと無理してがんばることが気持ち良かったし、達成感もあった。でも、50才になって、この先は自分の体ともっと丁寧に付き合っていきたいと思っていて。体調によって言葉の調子も変わりますからね。さっきも言いましたが、長生きして、たくさん書かないといけないので(笑)。

後藤:子供も社会人になりましたし、これからは楽しんでいこうと思ってます。よくお店でも話してるんですけど、「このご時世、自分の機嫌は自分で取らないとね」ということも大事ですよね。ご褒美多めで、楽しくやっていけたらなと。本に関して、校正がなければいくらでも出したいんですけどね(笑)。取材や撮影は楽しいんですけど、内容をチェックするのは全然おもしろくなくて、つらいだけなので。

青山:そうなんですか! 私、ゲラを見るのがいちばん好きなんです(笑)。よく「変わってる」って言われますけど、校正の段階になると「あと一歩!」って燃えるんですよ。校正さんの手が入ることで、確実に良くなるし。愛してますね、ゲラ(笑)。

後藤:すごい(笑)。

青山:小説を書くも大好きだけど、本を作ることが好きなんでしょうね。表紙のデザインもこだわりたくて。デザイナーさんは大変かも(笑)。

後藤:『お探し物は図書室へ』の表紙もいいですね。羊毛フェルトの写真がかわいくて。

青山:かわいいですよね。羊毛フェルト作家のさくだゆうこさんの作品なんですけど、本当に満足できる仕上がりになって。うれしいですね。

後藤:最初にも言いましたけど、本当に楽しく読ませていただきました。誰の人生も順風満帆ではないし、いろいろな事情があって。それをどれだけ外に出すかによって、それぞれの物語になるんだなって。すごく好きな作品です。

青山:ありがとうございます。そう言っていただけると、書いてよかったと思いますね。

■書籍情報
『お探し物は図書室まで』
青山美智子 著
価格:本体1,600円+税
出版社:ポプラ社
公式サイト

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