『SLAM DUNK』山王工業はなぜ湘北高校に負けた? 桜木花道という「異分子」への誤算
だが、頭ではわかっていても、体では理解できないものもある。ましてや、わずか1〜2秒のあいだに正しい判断をするのは難しい。
逆にいえば、これで、この先、山王工業にはつけいる隙も弱点もなくなったということになる。桜木花道のような神出鬼没のトリックスターをも「体験」してしまった彼らは(つまり、頭ではなく体でその脅威を理解した彼らは)、次の試合からは、あらゆる可能性を考えた完璧なディフェンスを敷いてくることだろう。そこには、破天荒な「素人」がつけいる隙間など1ミリもないだろう。
「はいあがろう。『負けたことがある』というのが、いつか大きな財産になる」。試合終了後、山王工業の監督・堂本は、肩を落とした選手たちに優しくこう声をかけてやる。そう――このかけがえのない「負け」を味わった瞬間、山王工業は本当の意味での「最強」になったといっても過言ではないのである。
■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter。
■書籍情報
『SLAM DUNK 完全版(23)』
井上雄彦 著
価格:本体933円+税
出版社:集英社
公式サイト