不倫は本当に悪しきことなのか? 『恋する母たち』が問いかける、人間の尊厳

『恋母』は“ひとりの人間”の選択描く

 これは、子を持つ母が、ひとりの女性として、人間として“人生”と向き合う物語だ。

 現在TBSにて放送されているドラマ『恋する母たち』。柴門ふみが手がける同名漫画が原作で、2017年1月より連載を開始、2020年10月には第7巻が発売され、物語は完結した。

 ドラマでは、夫が失踪して以来、ひとりで息子・研を育てる石渡杏を木村佳乃が、弁護士の夫を持ち、専業主婦で3人の子供を育てる蒲原まりを仲里依紗が、小説家を目指す夫と不登校の息子と暮らしている林優子を吉田羊が演じているほか、彼女たちが恋に落ちるキャストに小泉孝太郎、阿部サダヲ、磯村勇斗が名を連ね、その恋愛模様に注目が集まっている。

 『恋する母たち』は、その名のとおり、子を持つ母親の、夫以外の男性との恋が描かれている。その危険な香りに惹きつけられる人もいると思うし、ドラマは(第1話の時点で)より恋愛にフォーカスした内容になっているが、筆者は、3人の女性がひとりの人間として、自らの人生と向き合う姿を写し出した作品だと感じている。

 先日放送開始したドラマの第1話では、杏・まり・優子が結婚式で愛を誓ったあと、出産し、家庭を持ち、3人が出会う“息子の高校の入学式”までの流れを描きながら、キーパーソンとなる男性陣が登場。第2話では、それぞれの恋に拍車がかかるーー。

 今回は、ドラマをきっかけに原作に興味を持った人に向けて、漫画『恋する母たち』を紹介したい。

※以下、作品の内容について触れています。

 漫画『恋する母たち』は、先述したように、3人の女性と夫以外の男性との恋愛をテーマにした作品だ。そのなかで、夫婦関係の悩みや、仕事の話など、現実的な問題も出てくる。“禁断の恋”といわれると、非現実的で夢のような世界だと感じるだろう。だが、至って自然な流れで恋に落ちる様子が描かれているのが特徴的だ。

 結婚をした状態で、パートナーではない人と恋に落ちる。いわゆる不倫。最近では著名人の不倫が注目を集め、テレビのコメンテーターがまるで国民の代弁者のように意義を唱えたり、SNSが攻撃的な言葉で溢れたりする。だけれど、不倫はそんなに珍しいことなのだろうか。悪いことなのだろうか。……もちろん、筆者が実際に不倫をされたとして、肯定できるとは断言できない。だが、そんな考えが頭をよぎってしまうほど、“恋する母たち”は“ひとりの人間として”きらきらと輝いているし、3人とも納得感を大切にしている。

 物語は、息子の成績が悪く、自主退学を勧められた杏・まり・優子が集まるシーンからはじまり、3人それぞれの視点から彼女たちの人生をなぞるように進行していく。

 杏は夫・慎吾が失踪したことをきっかけに生活が激変。ある日「(慎吾が)駆け落ちした女の夫です」と現れた斉木巧と、お互いの寂しさや怒りを埋めるように関係を持った。数年後、息子の高校の入学式の晩に、巧から「ご主人(慎吾)の居場所がわかりました」と連絡があり、慣れたはずの日常がまた大きく変化する。

 一方、子育てと弁護士の夫・繁樹の不倫に悩んでいた専業主婦のまりは、チャリティーコンサートで人気落語家・今昔亭丸太郎と知り合い、ふたりは惹かれ合う。まりがその気持ちを打ち消そうとしていたところに、夫の不倫相手があらわれ、彼女の恋心に火を付ける。

 課長として働き順調にキャリアを重ねながらも、不登校の息子との関係に悩みを抱える優子は、夫・シゲオと順調な家庭生活を送っていた。だが、とある出来事をきっかけに後輩である赤坂剛と不倫関係に。

 物語が進むうちに、杏は慎吾と再会、まりは引っ越し、優子は離婚と、母たちの恋愛模様を通し、あくまでもひとりの人間としての選択がしっかりと描かれていく。

 不倫は彼女たちの人生にとって、他人の目からみてもわかりやすい“トピック”というだけで、彼女たちの選択を見れば必然的に起きたことだったのではないだろうか。彼女たちは、描いていた未来を手放すときも、その瞬間の自分と向き合っている。

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